第27話 〈弓術〉

 冒険者の持っていた品質の良い武器や鎧をゴブ助たちに与えた。


 オレ自身が装備するべきでは?と思うわなくもないが、正直言って指揮官であるオレ自身が戦わなければならない状況とは、ここのコアが相当に追い詰められた状況になってのことだろう。


 そんな戦況でオレ1人が戦いに身を投じても戦況を変えることができるとは思わないんだよ。だからオレ専用に高価な武具を用意することは当分は必要ないと判断をした。


 ただ、いざ戦わなければならない時になって焦るのはさすがにマズイだろうからと、狩猟用のコンパウンドボウを≪等価交換≫で購入して内職の合間に練習していた。それが功を奏したのか、いつの間にかオレのステータスに〈弓術〉なるスキルが発生していた。


「おっ!なんかいい感じに弓が引けてるって思ったらスキルをゲットしていたぜ!!」


「そりゃよかったっスね~」


「なんだよ、随分と冷たい反応じゃねぇか」


「そりゃそうっスよ。だって他の一般的なマスターならマスターになった瞬間から持ってるような平凡なスキルを自慢されてもねぇ。どんな反応を返したらいいのか反応に困っちゃうっス」


 そういや他のマスターは、基本的には現地生物の死者の魂コアに選ばれるから最初からスキルを持っているのか。……ってことは、べらぼうに強い冒険者の魂とかがコアに選ばれたら、その時点で難攻不落の大迷宮になるってことなのか?


 だとしたらなんかズルくね?俺がこうして苦労しながらチマチマと戦力拡充に努めているって言うのにさ!ダンジョンってのは圧倒的に異世界人に対して厳しすぎやしないか!?


「まあ、最初から強いスキルを持っててもマスターになった直後は使えないっスけどね」


 どうやらオレの考えというのは自分で思っている以上に表情に出るらしい。クロの『ヤレヤレ、仕方ないな』と言いたげな顔を見てそれを確信。


「使えないってどういうことだ?」


「言葉通りの意味っス。『使う』ことができると、『使いこなす』」ことができるってのは大きな差があるっス。なにせ普通ならマスターとして現界した直後は産まれたての赤子のようなもの、肉体のスペックは前世とは比べ物にならないほど弱体化しているっスから。ま、ウチの虚弱体質なマスターの場合だと逆に肉体スペックが上がってたみたいっスけど」


 コッチの世界の住民の肉体スペックは、前世の世界の住民と比べても遥かに高い。だがコッチの世界で産まれてコッチの世界で育ち、レベルアップを繰り返しながら成長したコッチの世界の住民からすれば、現界直後の肉体は弱体化したといっても過言ではないわけか。


「強力なスキルってのは発動するだけも肉体に対する負荷が大きいっス。現界した直後の弱くなった身体では、最悪の場合はスキルを発動した瞬間に肉体が爆発四散する可能性すらあるっス!」


「なるほど。……そういや前から思ってたんだけど、ダンジョンマスターに選ばれるのって人間だけなのか?」


「そんなわけないっス。むしろモンスターの方が多いぐらいで、亜人とかのマスターもいるっス。まあ亜人なら問題ないっスけど、知性の欠片もないモンスターがマスターに選ばれちゃうとダンジョンの運営が困難っスからね。だからその時は精霊にコアの操作権が自動で移譲されて、精霊がダンジョンの運営をするっス」


「ふむふむ。ってか、マスターが知性のないモンスターだと勝手にダンジョンから飛び出して勝手気ままに行動するとかないのか?」


「一応、ダンジョンコアが自分の命と直結しているって本能の部分で理解しているのでとんでもなく変な行動をとることはないっス。まあ、精霊を獲物と勘違いして襲ってくるって話も無きにしもあらずっスけど……」


「……お前ら精霊も結構大変なんだな」


「そうっス。だからマスターもオイラのことをもうちょっと労ってもいいんスよ?」


 なんか初めてクロに同情した気がする。もっともクロ自身に不幸が降りかかったってわけでは無いんだけどな。むしろオレの方がメイワクをかけ続けられているような気も……





 そんな些細なことは置いといて、今回戦闘に参加したゴブリンたちの何体かが『合成』できるようになったので早速取り掛かって行こう。


 いつものように≪等価交換≫の画面から『合成』のアイコンをタッチして……ん?


「どうしたっスか、いつもより変な顔をしちゃって」


「いつも変な顔みたいな言い方をするな。いやさ、いつもはゴブリン同士を合成しても赤・ゴブリンにしかならないんだが、今回は青・ゴブリンと緑・ゴブリンも選択画面に浮かんでてな」


「青・ゴブリンは素早さ特化で、緑・ゴブリンは防御特化の亜種っスね。何か変わったことをしたっスか?」


「変わったこと?そりゃぁ冒険者相手に戦わせたが……」


 そこでふと思い出した。そういえば冒険者相手に軽快な動きで奔走させたり、簡素な盾を持たせて冒険者の邪魔をさせたゴブリンがいたな。


 ってことは、ゴブリンの合成は経験させたこともまた能力の強化につながるということかもしれない。特に変わったことをさせなければ赤で、走り込みなどをさせたら青、防御の訓練をさせたら緑になるのだろうか。


 もう少し冒険者相手に色々と検証してみたい気もするが、あまりやり過ぎてギルドの注意を引きたくもないしなぁ。これまで通り、逸らず焦らず無理せずに、地道にやっていくことにするか。

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