第26話 一服盛る
目を覚ますと見慣れたダンジョンの中にいた。
「おや、お目覚めっスか?」
「おう。冒険者たちはどうした?」
「最初の取り決め通り、一番功績をあげたゴブ助が肥やしにしたっス!」
「そうか。いや~それにしてもゴブ助たちも結構やるもんだな。なんか見ていて嬉しくなっちまったよ。これが親心ってヤツなのかな?」
寝ぼけ眼をこすりながら上体を起こして背伸びをする。ゴツゴツした岩肌で寝かされていたのだが不思議と寝心地は悪くなかった。これもまたオレがこのダンジョンのマスターからなのだろうか。
そんなささいな疑問はさておいて、冒険者を圧倒したことで調子づいているゴブ助に『あまりいい気になるなよ』と忠告の念を送り、この度の勝利で得た戦利品を確認することにした。
「それにしても結構うまくいったっスね~」
「だな。ゴブ助たちの訓練の成果も出ているみたいだしな。ま、ここでいい気にならずにこれからも地道にコツコツとやっていくつもりだけどよ」
クロからもたらされた情報によって冒険者の討伐を決めたオレは、どうやって安全かつ確実に冒険者を弱体化させるかを考えた。
ゴブ助たちの武器に麻痺毒を塗る?麻痺毒はコアのポイントで交換することもできるが、敵に手傷を負わせることができなければ意味がない。毒ガスを散布する?残念ながら、ゴブ助たち全員に防毒マスクを与えられるほどの余裕は今のところはない。
ということで、商人のフリをしたオレが冒険者たちに接近し、食事に睡眠薬を盛って弱体化を図るというザックリとした計画をたてたのだ。
しかし食事に一服盛ると言っても、冒険者たちも初対面のオレを根っから信じてくれるはずもない。食事の準備中も、オレが何か不審な行動をとっていないかと観察してくることもあるはずだ。
Q 警戒する相手に気づかれずに食事に睡眠薬を盛る方法は?
A 自分も睡眠薬入りの食事を素知らぬ顔で食べればいいじゃない(笑)
ということで冒険者の目の前で堂々と睡眠薬がたっぷり入ったカレーパウダーを鍋の中に堂々とブチ込んで料理をこさえてやったのだ。
ちなみにカレーを選んだ理由は特になく、単に匂いと味が強ければ睡眠薬がバレにくくなるだろうという希望的観測にのっとり調理したのだが、隠し味に睡眠薬が入っていると知っている自分で食べても分からないぐらい普通に旨いカレーを作ることができた。
食べたカレーの量が冒険者よりも少なったことの影響か、冒険者たちがゴブ助たちによって完全に無力化されるまでオレは意識を保つことができていた。
冒険者たちとゴブ助たちとの戦闘中、いざとなればオレ自身で奇襲をかけることも覚悟し、ゴブ吉との接戦を演じながら冒険者のことをつぶさに観察していた。が、オレの想定よりもゴブ助は善戦し、例え睡眠薬がなかったとしても勝利を収めたと思えるほどの見事な戦いっぷりを見せていた。
戦いが終わっても即座にキャンプ地で冒険者を殺すようなことはせず、ロープで縛ってわざわざダンジョンまで連れてきてから肥やしにした。正直、わざわざ冒険者たちを運ぶのは面倒な作業ではあるが、ダンジョンの中で殺さないとコアのポイントが加算されないのだから仕方がない。
そうして冒険者たちを運ぶ準備を進めている途中、オレも睡魔に負けてしまいつい先ほど目を覚ましたというわけだ。
「さてと、冒険者たちの荷物を取り出して……っと」
邪魔にならないよう部屋の隅に置かれた荷物を漁り、目当ての物を探し当てる。
「何をするつもりっスか?」
「冒険者が記録していた調査目録があるだろ?コレをちょろっと改定して、ダンジョンから離れた場所で殺されたように見せかけようと思ってな」
「なるほど、相変わらず考えることがコスいっスね~」
「否定はしねぇよ。これも生きるための知恵だからな」
そのために冒険者と雑談を交えながら色々と情報を聞き出したのだ。
記録簿は極めて簡素な作りになっていて、簡単にページを抜いたり差したりできる作りになっている。
それをここ3日ほどの記録を抜き取り、3日前に冒険者たちが野営をした場所の周辺に荷物と一緒においておけば、ヨルグの消息を調査に来た冒険者たちもその辺りで何かあったと誰もが思うはずだからな。
次に財布を取り出し、中にあった貨幣を≪等価交換≫で残高に変える。
冒険者は命を懸ける職業なだけあってそれなりに見入りがいいのだろう。3人合計で金貨3枚に銀貨21枚と言うなかなかのお金を持っており、合計で51万円の収入となった。
これでもう少し稼げばハンドガンが買えるようになるわけだが、どうやらコッチの世界の住民はかなり頑丈にできているっぽいからハンドガンじゃあ多分、戦いを領分としない民間人ぐらいしか倒すことができないだろう。
冒険者を倒すためにはアサルトライフルぐらいの高火力な銃火器が欲しい。欲を言えばコアの前にガトリング砲を10門ぐらい設置して、超火力で守ることが出来れば怖いものはないんだが……今置かれている状況から考えれば当面の設置は無理だろうな。
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