第8話 笑顔のノイズ
朝、目が覚めた瞬間から、何かがおかしかった。部屋の空気が重い。窓の外、鳥の鳴き声がいつもと違う。高すぎる音程。妙に耳に残る。……耳でもおかしくなったか?今度耳鼻科にでも行ってみるか。まあ、それに鳥にだって個性はあるしな。あんまに気することでも無い。
制服に袖を通すと、ポケットに入れたはずの妹の写真が、少し折れていた。昨日はまっすぐだった。誰かが触った?いや、そんなはずはない。まさか、不注意で俺が折っていたり……してないとは、思う。……折れてんの、嫌だな。
登校中、通学路の電柱に貼られた古いポスターが目に入った。見覚えがある。妹が憧れていた“英雄”のキャンペーン広告。だけど、そこに書かれたキャッチコピーが違っていた。
〈英雄は、誰かの犠牲で輝く〉
そんな言葉、前はなかった。なんか、前もこの文読んだことがあるような……。気のせいか。
教室に入ると、ユウが俺にノートを見せてきた。異能理論の授業内容。そこに、見慣れない公式が書かれていた。
〈感情強化型異能は、記憶干渉に弱い〉
俺の異能が、記憶に影響される?そんな話、聞いたことない。ただ……書いてあるし、今日はおかしなことも起こってるような気もする。じゃあ、間違ってはいないのか?
昼休み、カイが俺に言った。
「お前、最近夢で笑ってないだろ」
俺は驚いた。確かに、最近の夢は全部無表情だった。でも、なんでカイがそれを知ってる?わからない。今日は、おかしなことが起こりすぎてる。
放課後、図書室で銀髪の少女に会った。彼女は、俺に一冊の本を差し出した。表紙には
〈記録管理局・非公開資料〉と書かれていた。中を開くと、妹の名前があった。空木ミナ。“協力者”と記されていた。協力者?何の?俺は何も知らない。
その夜、帰宅すると、机の上に一枚の紙が置かれていた。俺の字じゃない。妹の筆跡。だけど、日付が“今日”になっていた。そんなはずはない。紙にはこう書かれていた。
〈笑って。それが、あなたの武器だから〉
俺は震えた。誰が書いた?どうして今?その瞬間、部屋の電気が一瞬だけ消えた。
真っ暗な中、窓の外に黒い影が立っていた。人か、何かか、わからない。でも、確かに“見ていた”。
俺は笑った。怖くて、混乱して、分からなくて、理解が追いつかなくて。今日、今、何が起こってる?事の展開が、テンポが早すぎる。変なことが起きすぎてる。嫌だった。不快感と吐き気。不安感。怖い。でも笑った。笑うしかなかった。
だけど、心の奥では、何かが崩れていく音がした。笑顔の裏に、ノイズが走っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます