第5話 雪上の足跡

 今朝は随分と冷え込んだ。凍り付いた扉を開けると、雪が十数センチばかり積もっていた。

 まだ早い時間帯なので、足跡はほとんど見られなかった。

 いつもの道も雪化粧しているから、どこか真新しい景色に見えた。

 ザクザク、ザクザク

 私は足が取られないように、勢いを付けて歩いていた。

 不思議と人には出会わなかった。

 まるで知らない世界に私だけ取り残された気分だ。

 早めに出たのは、雪の影響で遅れることを避けたかったからだ。

 ザクザク、ザクザク

 私は白い息を、車の排気ガスのように吐き出した。十分か十五分かしか歩いてないのに体は冷凍庫のように冷え、爪先は氷のように冷たくなっていた。

 その時、私は不思議な景色を見付けた。

 ザクザク、ザクザク

 私の前には、真新しい足跡があった。

 まるで今付けたばかりというくらいの綺麗な足跡だった。

 それは前から来たように、こちら向きに足跡が付いていた。しかし、振り返ってみると私の後ろには足跡が無かった。何か辻褄が合わない違和感を覚えた。

 私の後ろには、私が通ってきた足跡があるはずだ。

 雪は降っていないから、足跡が消えるはずはない。

 その上、私の前にある足跡も私を通り過ぎて残っているだろう。それがない。

 私の所で足跡は止まっていた。よく見ると、私の足がぐっとねじれて爪先が後ろを向いていた。前から来た足跡は、まるで私が付けた物のようだった。

 私は一歩足を踏み出した。するとおかしな事が起こった。

 私の後ろを向いた足は、目の前の足跡をしっかり踏み締めた。

 一歩踏み出した後の足跡はそこには残らず、新雪が降り積もったように消えてなくなった。

 それが繰り返され、私は足跡を消しながら歩いていた。

 私の足は今もねじ曲がって、後ろを向いている。

 その足で私は前に進むとも、後ろに下がるとも分からない感覚を味わっている。

 足跡を消しながら、前に続く足跡を一心に踏んでいった。この足跡をたどるしかない。それがどこまでも続くようで、恐ろしくなった。

 ザクザク、ザクザク

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