第6話 雪女
隣の家は何ともないのに、その家の屋根だけ一メートル以上雪が積もっていた。
どの窓も雪の結晶のように凍り付いていた。生け垣や庭木は雪で覆われた樹氷のようだった。
その家に人が住んでいる痕跡は、雪や氷で掻き消されていた。
明らかにその家の様子はおかしかった。救助隊が到着した時には、家の玄関扉は施錠されていなかったが、氷を溶かさなければ、開けることは出来なかった。
凍っている。
玄関扉も、玄関先の扉も雪が一面に積もって、それがガラスのように硬かった。
ハンマーで氷を砕きながら、ようやく家の中に入ることが出来た。しかし、そこにも氷と雪の世界が広がっていた。
玄関に飾られた花瓶の花は、完全に氷に閉じ込められていた。床は凍った雪がびっしり積もっている。
一体どういう事が起こって、こんな状態に陥っているのか分からない。
救助隊は吐く息を白くさせ、呼び掛けた。
誰かいませんか。
家の中から応答は無く、救助隊の声が虚しく響いた。天井からはつららがぶら下がっている。
電気も点っていないようだ。家に上がって、手近な部屋を確かめた。
ここも扉が雪や氷で覆われていたが、何とか開くことが出来た。ダイニングだ。
その光景は真面とは言えないのだ。部屋の中が雪で埋め尽くされていた。雪を掻き分けながら、部屋を捜索する。ソファーのあった場所に遺体を発見する。
遺体は完全に凍り付いて、冷凍庫の魚のようだった。まるで一瞬で凍り付いたように、ソファーに倒れていた。
ダイニングからキッチンへと向かう。キッチンもダイニングとあまり変わらない。
流しの前で、立ったまま凍り付いた遺体を見つける。
一体何が起こったのだろう。
流しの水道が開かれた状態で凍り付いている。一階を粗方見回って、二階に向かう。
階段は雪に覆われ、積雪した斜面のようだった。一歩一歩雪を踏みしめながら上がった。
子供部屋を見つけ中に入ると、まるで冷凍庫の中のようだった。
そこには抱き合うようにして、男の子が凍って倒れていた。この家に生存者はいない。絶望して救助隊は遺体を外に運び出した。外の空気が暖かく感じられた。
雪女だ。救助隊員の一人が叫んだ。
ひゅるり、ひゅるりと奇妙な声が聞こえてきたのは空耳だったか、それとも風の呻きだったか。
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