第32話 エレナ②
『違うよ恭介。ありがちな話じゃないか。恭介は、自分と対話しているだけだって』
「ちがう!」
俺は叫んだ。
「いつだって探してた。いつだって夢に見た。なぜかはわかるだろう? 苦しかったからだ!
友達なんていらなかった。お前1人いればよかった! 今、唯一友人だっていえるあいつも、きっとお前を超えることはできなかった。
ああ、わかってる。お前は幻だ。命もカタチもない幻像だ! でも愛してる、きっと愛せてる。
想像のなかのお前はいつも笑ってるんだ。どんなに俺がつらいときでも、それは幸せそうにしててさ。うらやましくて妬ましくて、だいすきだった。
もう1人の俺が、もう1人の人生を、まっとうしてるように思えて。
現実の俺が泣くことで、夢のなかのお前が幸福なら、それでいいと思えたんだ。当たり前だろう?!」
手をのばした。
「双子なんだから!!」
ふいに足の裏の感覚が消えた。
あ、あ、あ。さっきまで見下ろしていた景色が、ぐうんと前にせりだす。ゆっくりと地面がさかさまになる。
え、あれ。自分の足が空を踏んでいる。俺はこんなこともできたのか。
だけどその、かりそめの地面もどんどん遠のいていく。
今の今まで立っていた屋上も、気がつけばもう見えない。
ビルの窓ガラスに映る自分は、なんて不格好に落ちてるんだろう。
『ごめん、ごめんね』
体勢を整えようとする俺に、声が降ってきた。
『こんなつもりなかった。こんなつもりなかった……』
うん、泣かないでよ。俺はこんなつもりだったんだ、もとから。
そっと目をつむった。地面まで、あとどれぐらいかな。アスファルトに激突したときに半目でいるのは、やだな。
『ごめん恭介。ごめん、ごめん…………』
まだ声は聞こえるけど、もう気にならなかった。
もう1度手をのばす。今ならお前に触れられる気がする、エレナ。
空気のカタマリみたいなものに当たった。しぜんと目を開く。前を見て、窓に映った俺は――。
to be continued...
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