第31話 エレナ①
俺には、キョーダイがいたのかもしれない。
そいつがいれば、もっと人生違ってたのかもしれない。
人生が違ってたなら、もしかしたらこんなこと――……。
風が吹く足もとを、じっと見る。
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「
母親がそう言って俺の頭をなでたとき、ああ、それが現実だったなら……という思いで身がよじれそうだった。
小4の冬。雪は降らない。
だけどもし隣に、同じ遺伝子をもつやつがいたなら、きっと幸せだった。
頭をなでられるのも2人いっしょで、おやつを分け合ったりしたんだろう。
『バニシング・ツイン』。その単語を教えられたときから今まで、忘れたことなんてない。
「恭介の性別がまだわからなかったとき、女の子なら『エレナ』にしようって決めてたの」
と聞いた日から今日まで、エレナ、お前を夢見なかったことはない。
きっと俺たち、最高の双子になっていた。
小学校からの帰り道、いっしょに歩きながら、マンホールを踏む数を競っただろう。
水たまりにジャンプして、2人まとめて怒られたかもしれない。
面倒な計算ドリルも助け合って乗り越えた。
遊ぶ友達がいなくたって、お互いがいればじゅうぶんじゃないかって笑った。
中学校でも、部活終わりは待ち合わせをした。
先生を愚痴ったり、テストで嘆いたりしたんだろう。
人目が怖いことも、エレナは笑い飛ばしてしまう。俺が頬をふくらますと、こう言うんだ。
「どうしてそんな、くだらないことを気にするの? お前の目の前にはエレナがいるじゃんか」
ねえ、会えやしないだろうか。
死ぬ間際に一瞬だけでも姿が見えやしないだろうか。
願わくば、俺の呼びかけにふり返ってほしい。すぐに気がつくさ、元・双子なんだから。
風が吹く足もとを、じっと見る。
『違うだろう、恭介』
違わない。なにも違わないよ。
『今になって付け足した思い出で、私を創りださないで』
どうしてそんなことを言うの。俺はいつでもお前を待ってる。
『その結果がこれじゃないか。わからない?』
……エレナ、どうしちゃったんだよ。
『違う、違うよ恭介。ありがちな話じゃないか。恭介は、自分と対話しているだけだって』
to be continued...
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