第31話 エレナ①


俺には、キョーダイがいたのかもしれない。


そいつがいれば、もっと人生違ってたのかもしれない。


人生が違ってたなら、もしかしたらこんなこと――……。


風が吹く足もとを、じっと見る。



****



恭介きょうすけにはね、双子がいたかもしれないんだよ」

母親がそう言って俺の頭をなでたとき、ああ、それが現実だったなら……という思いで身がよじれそうだった。


小4の冬。雪は降らない。

だけどもし隣に、同じ遺伝子をもつやつがいたなら、きっと幸せだった。


頭をなでられるのも2人いっしょで、おやつを分け合ったりしたんだろう。



『バニシング・ツイン』。その単語を教えられたときから今まで、忘れたことなんてない。


「恭介の性別がまだわからなかったとき、女の子なら『エレナ』にしようって決めてたの」

と聞いた日から今日まで、エレナ、お前を夢見なかったことはない。


きっと俺たち、最高の双子になっていた。


小学校からの帰り道、いっしょに歩きながら、マンホールを踏む数を競っただろう。

水たまりにジャンプして、2人まとめて怒られたかもしれない。

面倒な計算ドリルも助け合って乗り越えた。

遊ぶ友達がいなくたって、お互いがいればじゅうぶんじゃないかって笑った。


中学校でも、部活終わりは待ち合わせをした。

先生を愚痴ったり、テストで嘆いたりしたんだろう。

人目が怖いことも、エレナは笑い飛ばしてしまう。俺が頬をふくらますと、こう言うんだ。

「どうしてそんな、くだらないことを気にするの? お前の目の前にはエレナがいるじゃんか」



ねえ、会えやしないだろうか。

死ぬ間際に一瞬だけでも姿が見えやしないだろうか。

願わくば、俺の呼びかけにふり返ってほしい。すぐに気がつくさ、元・双子なんだから。


風が吹く足もとを、じっと見る。



『違うだろう、恭介』


違わない。なにも違わないよ。


『今になって付け足した思い出で、私を創りださないで』


どうしてそんなことを言うの。俺はいつでもお前を待ってる。


『その結果がこれじゃないか。わからない?』


……エレナ、どうしちゃったんだよ。


『違う、違うよ恭介。ありがちな話じゃないか。恭介は、自分と対話しているだけだって』



to be continued...

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