第4話 彼女と先生①


 『好きですか、それとも嫌いですか』


 彼女に訊かれて、答えられなかったことを今でも覚えている。

 リュックサックを背負い、夕日越しにわたしを見つめる目を。オレンジ色に染まったまつげを。頬にかかった数本の髪を。


 九月二一日の、まだ暑い放課後だった。熱か暑さか、それ以外だったのかもしれない。妙にみずみずしい黒目に、わたしは何をすればよかったのだろうか。


 そのまま彼女は後ろ向きに倒れた。支えることも間に合わなかった。


 九月二十日の夕日は痛い。『明日です』と、囁かれる気がしてしまうから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る