第5話 彼女と先生②


花束を渡したい。

最後の最後でわがままを。

あなたに会いたい。

最初で最後の別れ際に。

その腕で眠りたい。

最も偉大な愛情だから。


「あのね」

シュー、シュー、シュー……。

「ごめんね、ずっと言えなくて」

シュー、シュー……。

「だいすきだよ」

「……」

「だから帰ってきて」

シュー、シュー……シュー……。


玄関のドアを開けて、真っ暗なリビングだけが出迎えること。荷物を投げ出して泣きわめいても、あなたは駆けつけてくれないこと。


おはよう。いってらっしゃい。いってきます。ただいま。おかえり。いただきます。ごちそうさま。おやすみなさい。


それらの代わりに花束を。お別れなんて信じない。認めない。私のそばには、あなたがいないと許さない。


だからありったけの愛をひとつに束ねて、あなたに届けたいの、お母さん。

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