第2話
はじめて会ったのは、洸太が部活体験に来た時だった。いつもは、春休み期間にも体験入部を受け付けていたけど、その年だけはやらなかった。
入学式の次の日、10人ほどの入部希望者の中の1人が吉倉洸太だった。他の希望者よりも背が低くて、そこだけ凹んでいるのが遠くからでもよくわかった。
よく焼けた肌にくりくりした目が、可愛かった。最初は緊張気味だったが、喋りかけるとハキハキ返すやつだった。Ribbonの連絡先を教えると、嬉しそうに目を輝かせて言った。先輩と連絡先を交換するの、初めてなんです、と。
そこからは、急速に仲良くなった。学校ですれ違うたびに、嬉しそうに挨拶してきた。部活でも、いつも俺の後をついてきた。俺も、弟みたいに可愛いがった。一緒に練習帰りにラーメンに行ったこともあった。
うちの学校は、甲子園に行けるほどの学校じゃなかったけれど、チーム全員で勝ちを目指して練習に打ち込んでいた。俺は、投手じゃなかったけれど、1年の秋からはレギュラーとして試合に出ていた。
洸太と、一緒に試合に出ようと約束した。俺も、洸太もいつかくるその日を楽しみにしていた。今まで以上に、練習に励んだ。どんなにキツイ練習でも、耐えられた。
俺が2年の夏、3年生にとって最後の大会が始まる時期の練習中に、俺は監督に呼ばれた。
「次の試合、お前は試合に出さない」
なにを言われたかわからなかった。
「どういうことですか?」
思わず聞き返した。この前の練習試合でも、出してもらえたのに、急に出さないなんて言われると思っても見なかった。頭の中は、なんでとどうしてで埋め尽くされた。
「次の試合、お前は初戦だけ出す。でも、その次からの試合に出さない。お前は、諦めグセがある。初戦はうちが勝てるはずの相手だ。ただ、その次は勝てるかどうかは五分五分だ。最後は、気持ち勝負の可能性だってある。そんな試合に諦めグセのあるやつは出せない」
ショックだった。信じられなかった。自分に諦めグセがあるなんて、信じたくもなかった。自分は、誰よりも諦めが悪いと思っていたのに。
それでも、監督が決めたことなら受け入れるしかなかった。わかりましたとだけ言って、練習に戻った。その日の練習は、なにをしてても監督の言葉が浮かんで、どこかうわの空だった。
初戦は、監督の言うほど楽ではなかった。前半、リードされて後半に追いついたけれど、その後もピンチは続いた。俺は、完全に相手のムードに飲まれていた。9回の裏。1点リードで相手の攻撃。1アウト1、2塁。セカンドだった俺の遥かに頭の上を飛んでいく打球。完全に終わったと思った。俺たちが負けたんだと思った。でも、その時誰かが言った。「まだ終わってねえ。いける」と。その声の通りにライトの外崎が取った。
その時に思った。諦め癖ってこういうことなんだなって。次のバッターも抑えた俺たちは、試合には勝ったけれど俺1人で見れば負けだった。
その時に、やめようと思った。それでも、後少しだけもうちょっとだけを繰り返してズルズル続けて4月になってしまった。
俺が辞めた日の練習が終わる頃。同輩からなんで辞めたんだとメッセージがたくさん届いた。俺は、勉強がしたかったと言ってそこからいくら連絡が来ても見ることはなかった。
別に、勉強がしたかったのは嘘じゃない。行きたい大学があって行きたい学部があってそのためには勉強する時間が必要なのは事実だった。だから、俺はみんなに言った言葉を事実にするために必死で勉強した。
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