第19話「桂浜・剣道」

 第31番札所 竹林寺ちくりんじ

 願いを1つだけ聞いてくれる1言地蔵。

 次の札所まで徒歩7.0km。


 第32番札所 禅師峰寺ぜんじぶじ

 土佐沖を渡航する船の安全祈願。

 次の札所まで徒歩7.5km。


 🙏🙏🙏


 坂本龍馬像にやってきた。

「これが、おやじが若い頃に来たと言う坂本龍馬像か! でかいな。台座を含めた総高が13.5m、坂本龍馬像の高さが5.3m、すると台座だけで8.2mか……」

 タケゾウはガイド本を見ながら見つめている。


 坂本龍馬像からすぐに桂浜で、歩いても1〜2分である。

 桂浜では、剣道の練習をしている。地元の高校生のようだ。

 面白そうだと思いボーッと見ていた。


「お遍路さんも剣道に興味があるんですか?」

 高校生の部員が話しかける。

「いや、俺は剣道はやったことはないから、見ていただけで……」

 高校生はタケゾウのバッグに付いている神仙道の旗を見て、たしか、神仙道は武術の神じゃなかったかな?

 なんとなく神仙道を知っているようだ。


「良かったら、一緒に稽古してみませんか?」

 男子部員は神仙道に興味があるようで、強引にタケゾウをさそう。

 タケゾウも武術全般に興味があったのでやってみることにした。


 防具の付け方も知らず、全くの素人である。高校生に教えてもらい基礎から習った。


 1時間ほど皆んなと素振りなどをすると、練習稽古となりタケゾウも1年生と試合をした。

 タケゾウの動きはめちゃくちゃだったが、そこそこいい勝負になった。

 剣道も面白いなと思ったら、タケゾウをさそった部員も試合をしたいと言うので試合をすることになった。


 立ち会ってみると、1年生とは全然違う。

 タケゾウはやられ放題だった。

 この部員は3年生のキャプテンで県大会にも出ている凄腕である。


 棒立ちでなにもできなかったタケゾウは放心状態だった。


 🙏🙏🙏


 桂浜の近くの民宿に泊ったが、剣道のことが頭から離れない。

 ここで剣道を習うか?

 しかし、そんな時間はない。


 全くの素人が剣道の試合で負けて、当たり前なのだが、なぜかタケゾウは悔しかった。

 悔しくて、悔しくて食事も喉を通らない。


 悔しい、悔しい、悔しい。

 そう思い神仙道の旗を握りしめて寝てしまった。


 🙏🙏🙏


「オギャー、オギャー」

「あら、男の子ですよ。おめでとうございます」


 タケゾウは赤ん坊に生まれ変わっていた。

 日根野テツジと言う、鍛冶屋の家に生まれ竹蔵と名付けられた。


 土佐にある鍛冶屋で長男は松蔵、二男が竹蔵、三男が梅蔵と三兄弟になった。

 父親も母親も優しく商売も繁盛していて、竹蔵はのびのびと育った。


 親は優しいし、飯も旨い。兄弟もいて楽しいし、ここの暮らしも悪くない。

 竹蔵はタケゾウの時の記憶も持っている。


 ある日、竹蔵が仕事場の物置に入ってかくれんぼをしていたら、侍が二人来て父親と口論になった。

 侍は激しく父親をののしり、その場で切り捨てた。

 母親も長男も三男も斬り殺された。


 竹蔵は震えながらも、二人の侍の顔を目に焼き付けた。


 🙏🙏🙏


 当時、土佐では、厳しい身分差別があり、上士が町人を殺害しても、あまり問題にはならず、結局、 犯人の侍は捕まることはなかった。

 竹蔵は親戚の日根野道場に引き取られた。竹蔵8歳の時である。


 道場主の日根野ベンジは小栗流和術でやわら、剣術、手裏剣、棒術、抜刀術、槍術、薙刀術、水錬、騎射刀など殺法を教えていた。


 さらに、活法も上手かった。

 仙道の養生法も心得ていて、導引どういん服気ふつき辟穀へきこく食餌しょくじ房中ぼうちゅうなど不老長生の技も知っていた。

 竹蔵は剣術を学ぶのはもとより、活法にも興味があり導引を良く習っていた。


 竹蔵14歳の時、近くの郷士、坂本龍馬が日根野道場に入門してきた。

 歳は竹蔵と同い年で14歳だったので、竹蔵が坂本龍馬に剣術を教えた。


 メキメキと腕を上げていく竹蔵。

 しかし、細かい技はあまり興味を示さず、一撃で仕留める抜刀術ばかり練習していた。

 竹蔵には密かに決心していることがある。親、兄弟を斬った侍への仇討かたきうちである。

 ひたすら実戦のための稽古をしていた。


 🙏🙏🙏


 竹蔵17歳の時、街中で二人連れの侍を見かけた。忘れもしない親兄弟の仇である。

 その頃、竹蔵の腕は道場でも師範クラスだったが真剣勝負はしたことはない。

 仇を目の前にして足が震えた。

 竹蔵も元服して郷士の資格をもらい腰には真剣を刺していた。しかし、仇は服装から、あきらかに上士の侍である。


「ま、ま……てっ」

「待て?」

 上士に向かっての無礼。これだけでも斬り殺されるには十分である。


 汗と震えが止まらない。

「9年前に、そなたらに斬り殺された日根野テツジの二男、竹蔵である。父、母、兄、弟の恨み忘れがたし、仇討ちさせてもらう」

 刀のツバに手をかけ震えながら固まっている。


「小僧、上士に対する無礼許しがたし、されど、刀から手を離せば見逃してやる。どこかにいねー」


 竹蔵は戦う覚悟を決め、刀を抜いた。


 二人の侍も刀を抜き竹蔵を囲んだ。

 鍛錬を重ねた抜刀術で斬りかかる竹蔵、しかし、道場のようにはいかず刀で受けられた。相手は何人も人を斬って真剣になれている。人を斬ることにためらいもない。

 鍔迫つばぜり合いになれば、もう1人に斬られる、竹蔵は小技を嫌がっていたが日根野ベンジに親指斬りの技だけは覚えるよう、厳しく指導されていた。


 鍔迫り合いから侍の親指を斬り、振り向きざまに抜刀術で向かって来た侍の胴体を斬った。

 親指を押さえ、うずくまって竹蔵をにらむ侍の首をためらわずに斬り落とした。


 どんな事情があっても、郷士が上士を斬れば命はない。捕まれば、罪は家族にもおよぶ。

 竹蔵は、わら草履を脱ぎ正座をして、持っていた水筒の水を水盃の代わりに飲んだ。

 右側の着物を肌脱ぎし、脇差しを前に置き、左手で腹をなでた。

 脇差しを左の腹に刺して一文字に右に引いた。



 📜📜📜神仙道ワンポイント。

 郷士とは江戸時代の武士階級の下層に属して、武士の身分のまま農業などに従事した者です。

 上士との間には厳しい身分差別が存在し、土佐では、履き物も上士は高下駄、郷士はわら草履と決められていたらしい。

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