姫と女騎士は魔王様に負けました

ごま茶

魔王と騎士と姫

 これは昨夜の出来事だ。

 とある王国が滅んだ。その王国は、名の知れた強国で、どの国と戦争をしても敗北という文字は無かった。

 どの国よりも兵達は強く、最先端の技術で、他を圧倒し続けてきた。

 では、なぜ滅んだのか?

 答えは簡単。魔王軍が攻めてきたからだ。魔王の率いる軍勢に王国の人間達は奮戦した。

 だが、人間達が思っていたよりも魔王軍は強く、三日で戦争は終わり、魔王軍の勝利となった。

 生き残った人間達は、魔王軍に連行された。捕虜として扱われるか、あるいは奴隷として扱われるかは、人間達が知る由も無い。

 その中でも特別な人間は、魔王の元に連れていかれた。


 *


「くそっ!私達をどこに連れて行く気だ!」


 鎧を着た一人の女が抵抗するように体を動かす。だが、その抵抗は虚しくも体を拘束している鎖に何の効果も無い。手首を鎖で拘束され、首元には鉄製の首輪が付けられており、鎖で引っ張られている。


「はあ……いつまで抵抗するのかね……」


 鎖を引っ張っている、魔王軍の兵が呆れている。


「ほら、少しは大人しくしろ。隣のお姫様を見習え」


「…………」


 魔王軍からお姫様と呼ばれた女は終始無言で、なすがままに魔王軍の兵に引っ張られている。


「お前、姫様に馴れ馴れしいぞ!」

 

 鎧を着た女が魔王軍の兵を殺気丸出しで睨む。

 魔王軍の兵は、無視をして歩き続ける。


「ったく……ほら、着いたぞ」


 二人の女の前には自分の身長が三倍分くらいありそうな、大きな扉の前に立たされる。


「クラウディア様ー!お二人をお連れしましたー!」


 魔王軍の兵が扉の前で叫ぶと、大きい扉がゆっくりと開かれる。


「ほら、行くぞ」


 魔王軍の兵が歩き出すと同時に後ろの二人の女も歩き出す。

 扉を開けた先には広々とした部屋があった。地面は赤と黒を基調としたカーペットで敷き詰められており、天井には巨大なシャンデリアが飾られていた。

 部屋の奥には階段があり、豪華な玉座が見える。それに座っている人物は、ニヤリと笑い立ち上がる。


「ほう……貴様らが王国の女騎士と姫だな」


 その人物は階段から、ゆっくりと下りてくる。部屋に靴音だけが小さく響く。

 クラウディア様と呼ばれた人物は二人の目の前に立つ。


「俺の名は【ベリル・クラウディア】だ。まあ、気軽にクラウディアって呼んでくれや」


 クラウディアは二人に向かって軽く挨拶をする。


「漆黒の髪に……二本の紫の角……お前が魔王かっ!」


 鎧を着た女が、またもや殺気を出しながら叫ぶ。

 髪の色は漆黒で染まっており、瞳の色は金の宝石をそのまま、はめ込んだような美しい金色だ。そして、人外の特徴である紫の角が頭の左右に生えている。

 人間は、こういった人外の事を称して魔族と呼んでいる。


「あら?言ってなかったっけ?……まあいいや」


 頭を掻きながら、面倒くさそうにする。


「確か貴様が……お姫様の直属の騎士、【ルナ・アリサ】だな?」


 クラウディアは、アリサをジーっと見る。髪は短く整えられており、綺麗な金髪で、鮮やかな赤の瞳をしている。容姿端麗で美しい女性だ。顔を見ているとアリサが嫌そうにする。


「な、なによっ。何か文句でもあるの?」

「ふむ……中々に美しいな」

「魔王様に言われるなんて、光栄だわー」


 アリサは明らかな棒読みでクラウディアから顔を背けてしまう。


「おいおい……仮にも魔王なんだぞ?演技でも良いからもう少し、心を込めて言ってくれよ」

「ふんっ。魔族を褒める筋合いは無い」


 アリサは見るからに不機嫌な様子だ。クラウディアは突っ込むと、ややこしくなりそうな気がするので隣のお姫様を見る。


「そして……貴様が王国のお姫様、【ロゼット・リリ】だな」

「……はい」


 リリは怯えてるのか、体が少し震えていた。チョコレートの様な可愛い茶髪で、肩の辺りまで髪を伸ばしている。


 (これがロゼット家の特徴、紫色の瞳か……)

 

 ロゼット家とは有名な王家の血筋で、そこから生まれてくる子供は皆揃って紫の瞳をしているそうだ。


「おい、魔王!姫様が怖がっているだろ!」

「別に怖がらせる様な事はしてないぞ!?」


 アリサが鬼の形相でこちらを睨んでくる。クラウディアは必死に「誤解だ!」と言ったり、「そうだ!魔王特製の飴ちゃん食べるか?」と言って、両手から大量の飴を出す。

 リリとアリサを連れてきた魔王軍の兵士は溜息をつく。


「クラウディア様……しっかりしてくださいよ。なんで人間相手に困ってるんですか?」

「い、いや別に困ってないぞ?これはアレだ。場を和ませる為の雰囲気作りだ」

「訳わかんないこと言ってないで、仕事してくださいね。じゃあ私は戻りますので」


 兵士はクラウディアにお辞儀をして、この場から去っていった。


「お前って本当に魔王なのか?私が想像してた魔王とは何もかも違う気がするが……」

「失礼な、ちゃんと魔王だ。お前らが思っている魔王はもっとお堅い感じだろ?」


 アリサとリリは揃って首を縦に振る。


「言っておくが俺は、お堅い感じは嫌いなんだ。言葉選びに疲れるし、面倒だからな」

「はあ……」

「そんな事は、どうだっていいんだ。とりあえず本題に入ろう」


 クラウディアが再び、ニヤリと笑う。


「俺は貴様達と取引をしたいと思ってる」


 さっきのおちゃらけた雰囲気とは変わり、アリサは身構える。


「取引?……別に私達は何も持ってないわよ」

「チッチッ。何も物だけを交換するのが取引じゃないんだぜ?」


 クラウディアが人差し指を左右に振りながら言う。


「うざっ」

「いった!何すんだよ!」


 アリサがクラウディアに渾身の蹴りを入れる。クラウディアは蹴られた場所をさする。


「チッ。足まで拘束しておくべきだったか」

「アンタがうざいのがいけないんでしょ。ほら、早く話を進めなさい」

「はあ……もう、普通に言うけど、貴様達二人と戦争で捕虜になった王国の人間達をどちらかをこちらに差し出してくれないか?」

「……それってつまり、どちらかは犠牲にならなければいけないってこと?」


 アリサはクラウディアに鋭い視線を向ける。


「犠牲っていう言い方はやめてよー。殺しもしないし、過酷な労働生活もさせないよ」

「魔王の言う事なんて信用できないわ」


 アリサは短い会話の中に思考を巡らせる。


 (王国の民か、姫様を選ばないといけない……最悪の場合、私は犠牲になってもいい……なんとしてでも姫様だけはお守りせねば!)


「私に提案が――」


 アリサが魔王に対して交渉を仕掛けようとした。


「私が犠牲になります」


 静かで芯の通った声だった。その声の主は王国のお姫様、リリだった。


「なっ!?いけません姫様!」

「ふふっ。大丈夫ですよ。アリサ」


 リリは静かな足取りでクラウディアの目の前まで近づく。


「魔王ベリル・クラウディア様。私がここに残ります。王国の民の安全は保障されるのですね?」

「ああ、もちろんだ。それは約束する」


 リリは優しい笑みを浮かべる。


「それと同時にアリサも見逃してはくれませんか?」

「ひ、姫様っ!?」


 アリサが素っ頓狂な声を出す。


「ほう……俺に異議申し立てるとは中々、面白い奴だ」

「ふふっ。別に異議という訳じゃありませんよ。私は追加でお願いをしただけです」


 リリが口に手を当て、優しく笑う。


「だが、それは出来んな。こちらの会議で決まっている事だ」

「そうですか。それは残念です。では、王国の民をお願いします」

「うむ。取引は成立したな」


 あまりのスピード展開にアリサは付いて行けず、口を開いたまま固まっていた。


 (わ、私の知っている姫様と全然違う!王国では、いつもは無口で常に怯えてた雰囲気を出してたのに、どうしちゃったの!?何かが解放されちゃったの!?)


「おや?どうしたのですか?アリサ」

「い、いえなんでもありません」


 アリサは、気を取り直して平然を装う。


「申し訳ありません、アリサ。王国の民と一緒に貴方を逃がそうとしたのですが……ダメでした」

「と、とんでもありません!私は姫様に仕える為に存在するのです。姫様が残るのなら当然、私も残ります」


 アリサは、リリの目の前で片膝をつく。

 

「あー……なんか大事な話の途中で悪いけど、こっちのほうの話を続けていいか?」


 アリサがクラウディアの方をギロリと睨む。


「チッ。で?話の続きはなんだ?」


 クラウディアに聞こえるように舌打ちをする。


「女騎士は怖いなあ……まあ、取引は成立したし、手短に済ませよう」


 クラウディアが右手で指を鳴らすと、リリとアリサの拘束が解かれる。それと同時に魔法陣が出現する。その魔法陣の中に手を入れる。


「貴様らには、これを飲んでもらおう」


 魔法陣の中から、小さな瓶を二つ取り出す。中には赤い液体が入っているのが見える。


「この赤い液体は、なんだ?」


 アリサが興味を示すように瓶を見つめる。


「これは俺の血液だ。そして、貴様らには俺の血液を飲んでもらう」

「は?」


 アリサは意味が分からないという顔をしている。リリも首を可愛らしく、かしげている。


「俺もあんまり、複雑な事はわからないんだが、俺の血液を飲むと人間は魔族化するらしい」

「わからいって……それでも魔王か?しかし、そんな事がありえるのか?」

「俺は難しい事を考えたくないからな。俺が嘘を言っていると思うなら実際に試してみるといい」


 瓶を二人に手渡す。

 アリサは、瓶を警戒するように観察する。


「姫様。ここは私が先に飲みますので姫様は私の後に――」

「あら?ごめんなさいアリサ。もう、飲んでしまいました」


 リリの瓶の中は既に空っぽだった。アリサは顔に手を当てている。


「でも体に異常は――」


 突然、リリの頭の上に何かが生えてきた。よく見るとそれは、獣の耳に似たようなものだった。


「ほう。獣人族か」


 クラウディアは顎に手を当てる。

 獣人族とは、人間に獣の耳と尻尾を足したような種族である。国によっては人間にかなり近い存在なので、獣人族を魔族と呼ばない国もある。


「種族が変わるというのは不思議な気分ですね」


 リリが新しくできた猫っぽい耳と尻尾を触る。


「私も姫様みたいに獣人族になるのか?」

「そんなことは無いぞ。選ばれる種族は完全にランダムだ」


 アリサはクラウディアの説明を聞くと、瓶の蓋を開ける。そして、瓶の中身を勢いよく飲み干す。


「ほら、不味かったけど飲んでやったぞ」

「はいはい。ありがとうな」


 クラウディアは二人から瓶を回収する。


「姫様。私の体に異変はありませんか?」

「うーん……今のところは……」


 アリサとリリがそんな会話をしていると、アリサに変化が訪れる。


「おや?アリサの耳、こんなに尖っていましたっけ?」


 アリサは自分の耳に触れる。


「本当ですね。私の耳が変化していますね」

「……アリサ、口を大きく開けてみてください」


 リリが何かに気づいた様子だった。アリサはそれを少し不思議に思いつつも口を開ける。


「やはり……牙が生えていますね」

「ほほう。これは珍しいな」


 口を開けていたアリサはクラウディアに見られると恥ずかしくなったのか、すぐに口を閉じる。


「これらの特徴からすると、アリサの種族は吸血鬼だな」


 吸血鬼とは魔族の中でも珍しく、数が少ない。生物の血を主食にしており、日光や十字架に弱い。


「私は、これから血を飲まないといけないのか?」

「主な栄養源は血液だが、別に今まで通りの食事でも問題ないぞ」

「では、アリサは日光に当たると、どうなってしまうのですか?」


 リリが心配そうにクラウディアに尋ねる。


「むっ。確かに日光を浴びると危険だな。それは俺がどうにかしてやろう」

「なんとかできるのか?」

「当たり前だ。数日あれば解決してやる」


 クラウディアはアリサにドヤ顔を見せる。アリサは、それを見て少しイラっとする。


「はあ……とりあえず、種族は変わったわよ。私達はこれからどうすればいいの?」

「良い質問だ。これから貴様達には、この魔王城でメイドとして働いてもらう」


 アリサとリリはお互いに顔を見合わせる。


「メイドとしてって……私達、メイドの仕事なんて知らないわよ?」

「そこは安心しろ。来い、セバリーヌ」


 クラウディアの影から、人型の何かが出てくる。その人型は、クラウディアの隣に立つ。


「クラウディア様。例の件ですか?」

「ああ。そうだ」


 セバリーヌと呼ばれた魔族は、青色の肌をしており、紳士服を着ている。高齢なのか、白髪が生えている。


「こいつは、セバリーヌだ。今日から貴様らの教育係になる」

「私は【セバリーヌ】と申します。以後お見知りおきを」


 セバリーヌは自分の髭を触りながら、挨拶をする。

 アリサとリリもお辞儀をし、「よろしくお願いします」と返す。


「では、これで俺は失礼するぞ。後の事はセバリーヌに聞くがよい」

「は、はあ……」


 投げやりな態度のクラウディアにアリサは、納得のいかない顔をする。


「説明が足りなくて、すまないな。しかし、俺にも仕事があるんだ」

「それならば、仕方ありませんね」


 リリは、言葉とは裏腹に少し寂しそうな表情をする。それを見かねたクラウディアは、リリに近づくと、頭を撫でる。


「そんな顔をするな。仕事が終わったら構ってやる」


 リリは、頭を撫でられて驚いていたが、すぐに顔をほこらばせる。気持ち程度に尻尾も左右に揺れていた。

 その光景をアリサは、ジーっと見ている。


「なんだ?アリサも撫でてほしいのか?」


 クラウディアはニヤニヤしながら、アリサに近づく。


「は?何を言っている?私は大人だぞ」

「そんな、お堅い事言うなよ~。ほれほれ、少しだけだから――」


 クラウディアがアリサの頭に手を伸ばした。その瞬間にアリサはクラウディアの腕を掴み、背負い投げをした。

 クラウディアは、咄嗟とっさの事で受け身を取れずに、そのまま地面に激突した。


「うがっ!?」


 クラウディアが小さな悲鳴を上げる。それを見ていたセバリーヌは大きな溜息をつくのであった。


 *


 そのような出来事から数ヶ月後。

 アリサとリリはセバリーヌの教育の下、ある程度メイドの仕事ができるようになっていた。最初の方は慣れない様で、セバリーヌは心配していた。だが、二人は物覚えが早く、メイドの仕事を淡々とこなせるようになっていた。

 魔王城での生活も徐々に慣れていった。

 アリサは最初の内こそは、警戒していたものの、最近では魔族の友人ができ、仲良くしている。

 クラウディアに何回もちょっかいをかけられているが、全て返り討ちにしている。

 リリの方も友人ができ、王国と変わらない不自由ない生活を送っている。最早、人間と魔族が戦争をしていなかったのかと思うくらい平和だった。

 だが、アリサはリリに対して不満がある。


「ひ、姫様……クラウディア様がお仕事をなさっているのに、引っ付きすぎではありませんか?」

 

 アリサは顔を引きつらせている。

 それはクラウディアが執務室で仕事をしている時だった。

 アリサは、いつもの鎧姿ではなく、胸元が少し開いているミニスカートのセクシーなメイド服を着ている。本人曰くこっちの方が動きやすいから、これを着ているらしい。


「ふふっそんな事はありませんよ?」


 リリは満面の笑みで答える。

 リリはアリサとは対照的で、胸元は開いておらず、ロングスカートのクラシカルなメイド服を着ている。


「クラウディア様は邪魔じゃないんですか?」

「む?別に邪魔じゃないぞ」


 そう、アリサの不満とはリリとクラウディアの距離感が近すぎるというものだ。

 今でも、リリはクラウディアの膝の上に座っている。リリは小柄なので、クラウディアも邪魔そうにはしていない。


「なんだ?アリサもしてほしいのか?」

 

 クラウディアが不敵な笑みを浮かべる。


「は、はあ!?そんな訳ないでしょ!」


 アリサは少し焦りながら答える。


「おや?本当は、アリサもこちらに来たいんじゃないですか?」


 リリも口に手を当てて、ニヤニヤしている。


「ひ、姫様までっ!?」


 思わぬ援護射撃に、アリサは、しどろもどろになる。


「ほら。素直になりな」


 クラウディアとリリが手招きをしている。


「あー!もうっ!うるさーいっ!!」


 アリサは、顔が真っ赤になる。その直後に勢いよく執務室の扉を開けて、出て行ってしまった。


「あらあら……少しからかいすぎましたね」

「そうだな」


 *


 勢いに任せて、飛び出してしまったアリサは廊下を虚しく歩いていた。


「はあ……私ったら姫様になんたるご無礼を……」


 アリサは、自分が行った行動に対して反省していた。


 (姫様は別人のように変わられてしまった。もしかしたら、あのお姿が本当の姫様なのかもしれない……)


 アリサは昔の頃のリリを思い出していた。

 王国内でのリリは物静かで、あまり笑顔を他人に見せる事は無かった。言われた事を淡々と、こなしていく。王国の家臣からは人形と呼ばれている事もあった。

 だが、今では、お転婆になり、よく笑顔を見せるようになった。そこに関してはアリサは嬉しく思っている。

 しかし、アリサは心の中で葛藤する。


 (クラウディアと距離が近すぎるのよ!なんであんなにグイグイいってるの!?も、もしかしてクラウディアの事が……)


 アリサは邪念を振り払うかのように頭を振り回す。


 (あー!だめだめ!これ以上、クラウディアに姫様は近づけさせないわ!)


 アリサは非常に過保護であった。そして、ある作戦を思いつく。


 *


「はあ……今日も疲れたし眠るとするか」


 クラウディアは自分の寝室で眠りにつこうとしていた。この部屋には衣服が入ったタンスとクラウディアが5人分眠れるくらいの広いベッドしかない。


「この部屋にもベッドだけじゃなく、何か家具を置いた方が良いかもな」


 こんな事を言っているが、行動に移した事は無かった。ベッドで横になり、クラウディアは目を閉じる。

 すると、コンコンと扉がノックされる。


「こんな時間に珍しいな」


 疲れた体を起こして、扉の前に立つ。

 扉が強くノックされる。


「わかった、わかった。今扉を開ける」


 扉を開けると、アリサが立っていた。


「なんだ、アリサか。用件は――」


 クラウディアはアリサの姿を見て、固まった。

 アリサの服は、いつものメイド服でも、寝る時のパジャマでも無かった。

 体のラインがはっきりわかる煽情的せんじょうてきな赤いネグリジェを着ていた。生地が薄いのか、目を凝らせば透けて見える。


「な、なっ!?ど、どうした!?」


 わかりやすくクラウディアは狼狽うろたえる。


「……恥ずかしいから早く入れて……」


 アリサが消え入りそうな小さな声で呟く。


「わ、わかった」


 アリサを自分の寝室に入れる。よっぽど恥ずかしかったのか急いで寝室に入っていった。そして、ベッドで横になる。


「ほら……こっちに来なさいよ……」

 

 アリサが頬を赤らめて自分の横の空いているスペースをぽんぽんと叩く。


「お、おう……」


 わけもわからず、返事をするとアリサの横に座る。


「んで……急にどうした?」


 目のやり場に困って、クラウディアはそっぽを向く。

 普段の強気な態度のアリサと違い、弱気になって恥ずかしそうにしているアリサを見ていると、もの凄く可愛く見えてくる。


 (これが部下が言っていたギャップという奴なのか……)


 クラウディアは決して口に出さないように気を付ける。

 しばしの沈黙の後、アリサが口を開く。


 「そ、その……私の事は好きにしていいから……ひ、姫様には手を出さないで……」


 クラウディアがキョトンとする。


「ちょ、ちょっと待て。話の内容が全くわからないのだが?なぜ、俺がリリに手を出すんだ?」

「だ、だって……最近距離が近いし、姫様は可愛いから……クラウディアが手を出すんじゃないかって……」


 クラウディアが困ったように顔に手を当てる。


「はあ……それで自分が犠牲になるってか?……はやとちりだぞ」

「え。そ、そうなのね。な、なーんだ、私の早とちり――」

「へえ……私達、なのに手は出さないんですね」


 ここにいない第三者の声がする。クラウディアとアリサが声の方に振り向く。


 「姫様っ!?」


 声の正体はリリで、寝室の扉付近に立っていた。リリはジト目になってベッドに歩いていく。服は何故か大きめのローブを着ていた。


「おまっ……側室候補って……一体どっから知ったんだ?」

「たまたま部屋から聞こえたんですよ」


 ピコピコとリリの獣耳が可愛く動く。


 (絶対嘘だな。獣人族は耳が良いとされてるし、気配の遮断もできる。これから重要な要件の時は注意した方がよさそうだな)


 クラウディアが顎に手を当てる。そんな事を考えていると、アリサは慌てだす。


「え、え?どうして、姫様がここに?もしかして、私の後を追ってきたのですか?」

「そうですよ。アリサが破廉恥な服を着ていて、興味があったので付いてきました」


 自分の頭に手をコツンとして、可愛らしい仕草をする。


「じゃ、じゃあ側室候補って言うのは?」


 リリはクラウディアに向かって目くばせをする。

 クラウディアが溜息をつきながら説明を始める。


「まあ、アレだ。そのまんまの意味で貴様ら二人を側室候補として、その中から正妻を選ぶわけだ」


 魔族は人間と違い基本的には一夫多妻制の種族である。そして、クラウディアは魔王である以上、子孫を必ず残さなないといけない。そうでもしなければ、戦争などに巻き込まれて、魔王の遺伝子が途絶えてしまうかもしれないからだ。

 話を聞いていたアリサは顔が赤くなり始める。


「そ、それって私達をめとるってこと?」

「ふふっ……そうですよ、アリサ。そこにいる、わるーい魔王様に私達の体は貪りつくされちゃうんですよ」

「なっ!?そんな、如何わしい言い方をするなっ!」


 クラウディアも少し妄想してしまったのか頬が赤くなる。


「ほらほら、見てください。アリサなんて食べ頃ですよ」


 リリが急にアリサの胸を揉みしだく。


「ひゃっ!」


 アリサがリリの行為にびっくりしたのか、可愛らしい悲鳴を上げる。


「むう……いつの間にか、こんなにも大きく……許せませんね」

「ひゃうっ!お、おやめください!」


 リリが胸を触るたびにアリサからは熱い吐息が漏れる。


「だ、だめですう……んっ……これ以上は……」


 クラウディアはアリサから目を離せなくなっていた。


「あらあら……これ以上はダメですね」


 アリサはリリに解放されるとムッとする。


「姫様……後で説教です……」

「まあ、怖い。では、次はクラウディア様の番ですね」

 

 すると、リリが急にローブを脱ぐ。


「姫様っ!?一体何を!?」


 ローブを脱ぐと、リリもネグリジェを着ていた。アリサと同じタイプの様だが、こちらは薄い青色になっている。アリサと違い、まだ少し幼いので小柄だが、それでもクラウディアを魅了してくる謎の力があった。


「ちょっ!リリまでもかっ!」

「ふふっ。どうですか?まだ、この体は熟しては、おりませぬが美味しいですよ?」


 リリが妖艶な笑みを浮かべて、クラウディアに近寄る。


「あっ!?駄目ですよ!姫様!」


 アリサも負けじとクラウディアに近寄る。

 クラウディアの右手にアリサ。左手にはリリ。誰から見ても羨ましい光景だ。


 (あー……頭がクラクラする。右からはアリサのたわわな2つの木の実に腕を押し当てられてるし……左からはリリの綺麗な体に押し当てられてるし……)


 クラウディアは普段余裕があるように見せているが、女性への耐性がまったく無いため、アリサとリリにされたい放題だ。どんどんと体温が上昇していく。


「も、もうダメだ……」

「クラウディア!?」

「クラウディア様!?」


 とうとう、クラウディアがベッドに倒れてしまった。

 その後はクラウディアが気絶してるだけと知り、二人共、安心して一緒に夜を共にした。

 こうして……魔王様の激しい(?)の日常は続いていくのであった……。

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