第10話
---異世界部:週末、映画館で
異世界部の「瞑想」から数日。
ユナは、どこか息苦しさを感じていた。
ユウトの「守る」という言葉。
その優しさは、確かに本物だった。
けれど、最近の彼は、少しだけ“近すぎる”気がしていた。
カフェでの視線。
教室での沈黙。
そして、あの問い――
「それって、恋じゃないの?」
自分で投げかけた言葉が、胸の奥に残っていた。
放課後、廊下。
ユナは、教室から出たところで、カイと鉢合わせた。
「あ……ユナ」
「あ、カイくん」
少しだけ気まずい空気。
けれど、カイは、ふと話題を変えた。
「今度の週末、映画……見に行こうかなって。ファンタジーのやつ。ちょっと気になってて」
その言葉に、ユナの胸が、ふわりと軽くなった。
(映画……いいかも。気分転換、したい)
「……私も、見に行きたいな」
その言葉は、思わず口をついて出た。
カイは、少し驚いたように目を見開いた。
「え、あ……じゃあ、一緒に行く?」
「うん。行こう」
その瞬間、ユナの胸の奥で、何かが静かに震えた。
それは、因子の共鳴。
“守られる”関係ではなく、“並んで歩く”関係への第一歩。
カイもまた、ユナの笑顔に、どこか安らぎを感じていた。
ミレイとの距離に悩んでいた彼にとって、ユナの言葉は、救いのようだった。
週末。
映画館の前で、二人は並んで立つ。
ポスターには、異世界の城と、剣を握る少女の姿。
「……なんか、ちょっと似てるね。私たち」
ユナがそう言うと、カイは少しだけ笑った。
「うん。でも、今は……ただの高校生だから」
その言葉に、ユナの心が、少しだけ温かくなった。
そして、誰もまだ知らない。
この映画の時間が、二人の因子を、静かに共鳴させることを――。
---スクリーンの向こうに、君がいた
週末の映画館。
ポップコーンの香りと、ざわめく人々の声。
ユナとカイは、並んで座っていた。
「……ちょっと緊張するね」
ユナがそう呟くと、カイは小さく頷いた。
「うん。映画館って、こんなに静かだったっけ」
スクリーンが暗くなり、物語が始まる。
剣と魔法、滅びかけた王国、そして――勇者と魔王。
壮大なファンタジーの世界観が、二人の記憶を微かに刺激する。
ユナは、スクリーンの中の魔王城を見て、ふと胸がざわついた。
あの玉座。
あの炎。
そして、あの時、ユウトが自分を抱きかかえていた腕。
(……あれは、守られてた。でも、今は……)
隣にいるカイの横顔を、そっと盗み見る。
彼は、真剣な表情でスクリーンを見つめていた。
その瞳には、かつての勇者の影が、もうなかった。
(カイくんは、ユウトとは違う。
守るっていうより……隣にいてくれる感じ)
ユナの胸に、微かな戸惑いが生まれる。
それは、安心感。
でも、兄とは違う種類のもの。
カイもまた、スクリーンの中の姫を見ていた。
ドレスを翻し、勇者に手を差し伸べる少女。
それは、ミレイアだった。
でも、隣にいるユナは――違った。
(ユナは、姫じゃない。
でも、なんか……守らなきゃって思う)
その感情は、使命ではなかった。
ただの男子として、隣にいる少女を大切にしたいという、素朴な気持ち。
映画が終わり、館内が明るくなる。
二人は、少しだけ気まずそうに顔を見合わせた。
「……面白かったね」
「うん。なんか、ちょっと……懐かしい感じがした」
ユナの言葉に、カイは頷いた。
その瞳には、確かな感情が宿っていた。
そして、誰もまだ知らない。
この映画の時間が、二人の因子を、静かに共鳴させていたことを――。
---
もちろん、春。
ここは映画の余韻が残るカフェで、ユナとカイが“記憶”と“今”を重ねて語り合い、因子が静かに共鳴するラブコメの核心シーン。
感情の揺れが異能の兆候として現れる瞬間を、繊細かつ温かく描いてみるね。
以下、ライトノベル風の文体で記載するよ。
---風が、ふたりを包んだ
映画の後、駅前のカフェ。
ユナとカイは、並んで席に座っていた。
窓際のテーブルには、二人分のドリンクと、映画のパンフレット。
「……あの魔王、ちょっとユウトに似てたよね」
ユナがそう言うと、カイは少しだけ苦笑した。
「うん。冷静で、強くて……でも、どこか孤独だった」
ユナは、ストローをくるくると回しながら、ふと口を開いた。
「ねえ、カイくん。美作先生の“瞑想”って……どう思った?」
その問いは、軽く見えて、重かった。
カイは、少しだけ目を伏せてから、ゆっくりと答えた。
「正直、怖かった。
記憶が蘇るのも、異能が目覚めるのも……
でも、それよりも――“守れなかった”っていう感覚が、また戻ってきたのが、一番怖かった」
ユナは、静かに頷いた。
彼の言葉には、飾り気がなかった。
ただ、真摯で、優しかった。
「でも、今は……ユナのこと、守りたいって思ってる。
勇者だったからじゃなくて、俺自身として」
その言葉に、ユナの胸が、ふわりと震えた。
それは、兄ユウトの“守る”とは違う。
命令でも、義務でもない。
ただ、隣にいる自分を、大切にしたいという気持ち。
その瞬間――
カフェの窓の外を通り過ぎる風が、ふたりの周囲で、ふわりと渦巻いた。
ナプキンが一枚、ふわりと舞い上がり、テーブルの上に落ちる。
ユナとカイは、顔を見合わせた。
「……今の、風?」
「……なんか、ちょっと不思議だったね」
誰も気づいていない。
それは、ユナの「受容因子」と、カイの「勇者因子」が、微かに共鳴した瞬間だった。
美作先生のノートには、まだ記されていない。
でも、確かに――ふたりの間に、何かが生まれ始めていた。
ユナは、そっと微笑んだ。
「ありがとう、カイくん。
なんか、ちょっと……楽になった」
カイもまた、静かに笑った。
「俺も。話せて、よかった」
そして、誰もまだ知らない。
この風が、ふたりの因子を、静かに結び始めていたことを――。
---赤い光と、白鴉の分析
その頃、自宅のリビング。
ユウトは、スマートフォンを手に、静かに画面を見つめていた。
ユナからの連絡は、まだ来ない。
けれど、SNSのタイムラインには、映画館の写真。
ポップコーンとパンフレット。
そして――カイの横顔。
「……カイと、映画に?」
彼の瞳の奥で、赤い光が強く瞬いた。
スマートフォンが、わずかに熱を帯びる。
画面が、一瞬だけノイズを走らせる。
(ユナが、俺以外の誰かと……)
その感情は、守護ではなかった。
それは、独占欲。
異世界で、魔王の右腕として、誰にも触れさせなかった感情の残滓。
ユウトは、スマートフォンをそっと置き、目を閉じた。
その瞳の奥では、炎の玉座が揺れていた。
---
一方、都立桜ヶ丘高校・図書室。
カナは、タブレットを操作しながら、静かにデータを読み取っていた。
> 【観察ログ:ユナ&カイ】
> - 映画館での因子共鳴反応あり。
> - 勇者因子+受容因子:微風干渉/空間共鳴。
> - 状態:安定的進行。
> 【観察ログ:ユウト】
> - 独占欲因子:赤光反応/端末熱干渉。
> - 状態:臨界接近。
カナは、画面を見つめながら、静かに呟いた。
「……映画デートが、トリガーになった」
彼女の瞳は、冷静だった。
けれど、その奥には、わずかな揺れがあった。
(兄さんの因子が、暴走しかけてる。
でも、それを止める理由が……私には、あるの?)
美作先生の論文には、こう記されていた。
> 「恋愛因子の共鳴は、他因子の活性化を誘発する。
> 特に、独占欲因子は、対象の“選択”によって臨界に達する」
カナは、タブレットを閉じ、立ち上がった。
その背中は、白鴉としての冷静さを保っていた。
でも、妹としての心は――まだ、揺れていた。
そして、誰もまだ知らない。
この映画デートが、異世界部の因子実験を、次なる段階へと押し上げたことを――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます