第8話

--君は、ちゃんと守ってくれた


放課後の部室。

窓から差し込む夕陽が、机の上のカードを淡く照らしていた。


カイは、ミレイの隣に座っていた。

どこか落ち着かない様子で、指先をそっと組んでいる。


ミレイは、スマホをいじるふりをしながら、ふと口を開いた。


「ねえ、カイ。舞踏会の記憶……覚えてる?」


その言葉に、カイの指が止まった。

瞳が揺れる。

胸の奥に、炎の記憶が蘇る。


煌びやかなホール。

ドレスを翻す姫。

剣を握る自分。

そして――崩れ落ちる城。

手を伸ばしたのに、届かなかった。


「……守れなかった。俺は……」


カイの声は、震えていた。

勇者としての責任。

男子としての後悔。

それが、彼の言葉を重くしていた。


けれど、ミレイは、ふわりと笑った。


「違うよ。守ってくれたよ。あの時、あたし、ちゃんと感じてた。

カイが、あたしのこと、最後まで見てくれてたって」


その言葉が、カイの胸に届いた瞬間――


部室の空気が、わずかに震えた。


カイの胸の奥に、温かい光が灯る。

それは、勇者因子の共鳴。

罪悪感ではなく、感謝と愛情によって、因子が優しく震えた。


ミレイの腕に、うっすら残っていた火傷のような痕が――

一瞬だけ、柔らかな光に包まれた。

痛みが、消えたような気がした。


「……なにこれ。マジで、癒されたんだけど……」


ミレイは、驚きながらも、どこか嬉しそうだった。

カイは、ただ黙って頷いた。

その瞳には、確かな感情が宿っていた。


美作先生は、煎餅を口に運びながら、静かに記録を取っていた。


> 【観察記録:カイ&ミレイ】

> - 恋愛因子の共鳴による顕現反応。

> - 勇者因子:光属性/癒し系。

> - 姫因子:感情共鳴/身体反応。

> - 状態:安定的覚醒の兆候。


部室の空気は、少しだけ柔らかくなった。

それは、恋が生まれた瞬間の空気。

でも、同時に――異能が目覚めた兆しでもあった。


そして、カイとミレイの関係は、確実に一歩、前に進んだ。


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