第7話
--その愛は、鎖になる
昼休みの教室。
ユナは、クラスメートの男子と、文化祭の出し物について話していた。
「文芸部で朗読劇ってどうかな? ユナちゃんの声、綺麗だし」
「え、そうかな……ありがとう」
ユナは、少し照れながら笑った。
その笑顔は、柔らかくて、自然で――でも、誰かの視線が突き刺さっていた。
教室の後方。
窓際の席に座るユウトが、無言でその様子を見ていた。
彼の瞳は、冷静に見えて、どこか焦点が定まっていなかった。
そして――その瞬間。
机の上のペンが、ふわりと浮いた。
教室の空気が、わずかに重くなる。
誰も気づかないほどの微細な変化。
けれど、ユナだけは、確かに感じていた。
(……空気が、重い)
彼女は、ふと後ろを振り返る。
ユウトの視線が、まっすぐ自分に向けられていた。
その瞳には、言葉にできない感情が宿っていた。
(お兄ちゃん……)
放課後、異世界部の部室。
ユナは、そっとユウトに問いかけた。
「ねえ、お兄ちゃん。今日、教室で……何か、した?」
ユウトは、答えなかった。
ただ、静かに目を伏せた。
「……私が、誰かと話してるのが、嫌だった?」
その言葉に、ユウトの指先がわずかに震えた。
部室の空気が、また少しだけ重くなる。
「俺は……守ってるだけだ。誰にも、渡さない」
その言葉は、優しさではなかった。
それは、異世界で魔王の右腕だった彼が、命令ではなく“感情”で動いた証。
ユナは、胸の奥がざわついた。
守られているはずなのに、どこか息苦しい。
その感情は、鎖のように彼女を締めつけていた。
(……これって、本当に“愛”なの?)
ミレイが、部室の隅でスマホをいじりながら呟いた。
「え、ちょっと待って。それ、マジでヤンデレじゃね? てか、空気重すぎなんだけど~」
カイは、黙っていた。
けれど、彼の視線は、ユナに向けられていた。
その瞳には、何かを“守りたい”という、別の感情が宿っていた。
美作先生は、煎餅を口に運びながら、静かに記録を取っていた。
> 【観察記録:ユウト】
> - 顕現タイプ:空間圧制/物理干渉。
> - トリガー:対象の他者接触。
> - 状態:独占欲による因子暴走の兆候。
部室の空気は、もう“部活”のものではなかった。
それは、恋と記憶と因子が交錯する、感情の実験場だった。
そして、ユナの息苦しさが――
このラブコメの、次なるすれ違いを生む。
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