第17話 龍を飼う男


 その昔、八角天皇の治める時代から十字路天皇の統治の時代に変わった頃のお話。


 十字路天皇は若い頃、見聞の旅に出ていました。


 とある山間にさしかかり、「どこのものだ」と竹藪で聞かれますと、


 十字路の君は手に持っている先刻買った団子のことを言っているのだと思い、


「そちらの山間の」と答えますと、葉陰から笑い声がもれました。


 現れた忍者が「大蛇の化身じゃなかろうな」といぶかしみます。


「大蛇が現れるのですか?」


「そうなのです。その退治の準備を今しているところです」


「なるほど、私は皇室のもの。腕にいくらか覚えがあります。お手伝いしましょう」


 忍者の要望通り、女装をした十字路の君。


 十字路の君は麗しいお姿で、のちにこの騒動は舞として神事になっています。


 件の忍者が「大蛇は女の花園の蜜は好むらしく、いくらか被害が」と言います。


「許されんな」


 そんな時に、焚き火をした拓けた場所にうごめいてやって来た大蛇。


 大蛇は大きな頭を持ち上げ、十字路の君を見下ろします。


「ほーぅ。麗しいのぅ。のう、息子よ?」


「はい、父上」


 そう答えたのは忍者で、その妖はどうやら人型をとれるようでした。


 隠し持っていた刃をかざし、十字路の君が泣いています。


「たばかったのかっ」


「もう卵が芽吹く頃じゃの」と忍者の姿をした大蛇の息子。


 十字路の君は式である獅子を召喚し、大蛇とその息子を討ちます。


 そして街に降りて事情を話すと、街では災魔がなくなるはずだと宴。


 菊酒を出された十字路の君は、側にいる獅子の様子をうかがいます。


「分かっている。お前は小種役だから、迷うのもしょうがない」と獅子が喋ります。


「よもや、初めての夜の相手が妖の蛇・・・そうだ、蛇は龍にならんかのう?」


 こうして身体の中で蛇を育てた十字路の君は天皇になる前、人型の龍を生みましたとさ。

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