第6話 アップルパイ1/3


 森の中にあるお家は、かべがビスケットを砂糖でつなげたもの。

 窓が幾何学模様きかがくもようを描くいろんな色のあめ、

 屋根はかさねたクッキー

 玄関は板チョコ。


 その家に住んでいる娘さんは、とても心優しいひと。

 今日はドレスワンピースを着ていて、パンプスも似合っている。


 庭では、『ティータイムセットキノコ』を栽培さいばいしている彼女。

 最近良い感じの大きさになったテーブルキノコと、椅子キノコ。

 ピンクのかさに白い水玉模様だ。


「そろそろお客人きゃくじんが来てもいい頃ね」


 と可憐な声で、手製のアップルパイをテーブルキノコの上に置く彼女。


 琥珀色こはくいろのお茶の準備をして、椅子キノコに座ろうとした時。


「あ、忘れ物」


 彼女はお菓子の家に戻って、忘れていた用事をすませて戻って来た。


「あら・・・お客様が先に食べちゃったのね」


 そこには小鳥とアライグマとうさぎ。


 それから『僕』。


 彼女は僕が席に着く前にアップルパイ三分の一を食べたことを少し怒っている。


「もう三分の一は君のだよ」


 何度もうなうずく小動物たち。


「美味しかった?」と彼女が聞くと、小動物たちは何度もうなずいた。


「僕もなかなか美味しいと思ったよ。席に座るの忘れるくらいにね」


「ああ、そう。じゃあまたふるまう機会があるかもしれないわね」


 椅子キノコに座った彼女に、「ご一緒しても?」と僕が聞く。


「ええ、よろしくてよ」


 向かい側に座って、対面、にっと笑ってみせる。


 彼女は悪びれ方のおかしな僕に、苦笑した。


「いくらテーブルと椅子の栽培セットをくれたからって・・・」


「あーはいはい。悪口や嫌味は甘みの邪魔だよ」


 彼女は更に苦笑して、それじゃあお茶会を始めましょうか、と言ってくれた。

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