三つの矛

五來 小真

三つの矛

『氷河期世代は、賃金が上がらないまま三十年が過ぎたわけですね——』


「国も会社も、パパの給料を何だと思ってるんだ!」


 父はテレビを見て憤慨した。


「パパにそれを怒る権利はないよ」

「パパがそれだけの仕事をしてないってことか——!」


 父は娘の言葉に、怒りの矛先を変える。


「私は娘として、ちゃんとしてないってこと? 私も五年も小遣い変わらないままなんですけど?」


「——国や会社に言いなさい」


 そう言うと父は新聞を開き、こっちを向くことはなかった。

 父の矛は向かう先を見失ったようだが、娘の矛はより鋭くなった——。


「——ない袖はふれませんよ」


 母の言葉に、娘の矛先はぶった切られた。


 <了>

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三つの矛 五來 小真 @doug-bobson

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