嘘喰い少女奇譚 00

秋の穂峠にはな、

昔から妖怪が住んどるんじゃ。



⠀黄昏時にその峠を一人で越えようとするとな、後ろからひたひたと足音がする。小さなその音はやがて徐々に大きくなり、峠を下り始める頃には

お前の後ろにピタリとついてきておる。

 

⠀峠を越えるまで無言でおるとな、そいつは家に帰っても何をしてもずーっとお前の後ろをついて回ることになる。それは嫌じゃろ?

⠀じゃからな、そいつにお帰り願う方法があるんじゃ。



⠀それはな、『嘘をつく事』じゃ。

嘘ならどんなことでもえぇ。



⠀お前がビビっとる時に「妖怪なんか怖くない!!」といえば、それは立派な嘘じゃ。そいつがピタリと背中にくっついてきて、なおかつ、お前が峠を下ろうとする瞬間、奴に聞こえるように大きな声で嘘をつくのじゃ。

⠀そうすりゃ何もない。勝手に消える。ん?何でかじゃて?


⠀それはな、そいつが食事を始めるからじゃよ。嘘を食い始めるのじゃ。


⠀嘘がどんな味かも大きさかも知らん。じゃが、奴はむしゃむしゃと嘘を頬張り始める。

⠀その隙に一気に峠を下るんじゃ。そうすりゃ、妖怪はお前のことを追いかけて来やせん。



⠀何? 妖怪の名前は何かじゃと?

その妖怪は秋の穂峠の月が出始める頃に出るからの。




⠀名を『秋月の嘘喰い』という。

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