第20話

(ゴブリンだな。まぁ、ゴブリンじゃなくても、これなら何とか戦えそうだ)


 視線の先のモンスターは、こちらを向いて二本足で立っているとはいえ、その身長は低い。

 親戚の小学生、確か三年生か四年生だったと思うが、見る限りその子と同じくらいの身長と思う。

 確か百三十センチ前後だったはずで、体格的には脅威とはならない。


 その小さな身体には毛が生えておらず、肌の色も汚らしく思える緑色だ。

 その身体には何かの毛皮らしい腰布を身に着けているだけで、武器とか防具とかは装備していていない。


 そして、その顔だが醜悪な代物だ。

 人間として生まれていれば、間違いなく最悪の人生を送ることになるだろう。


 そんな顔つきと肌の色で、その命を奪う抵抗感はそこまでない。

 逆にこの相手で戦えないのであれば、人型との戦闘は絶望的であろう。

 さっさとギブアップすべきプレイヤーとなる。


(多分雄だとは思うが、可愛い女の子じゃなくてよかった。倒せてもトラウマになるわ)


 ダンジョン攻略を進めていけば、それこそサキュバスとか出てくるかもしれないが、その時はその時である。

 冷静にとか何とかとかで倒せるか、それともその色香に負けるか。


「今から悩んでも意味ないか。……さて、行きますか」


 防具を着ていない人型モンスターの相手なら、剣で闘ったほうがよいだろう。

 棍棒を入って直ぐ横の壁際に置くと、片手剣を右手に木盾を左手に身構えた。


 ゴブリンはアクティブモンスターだったらしく、俺が室内に侵入した時点で俺の方に向かってきている。

 そのせいで構えて直ぐに、相手は右手で殴ってきた。


「むっ!」

『アギャッ!』

「……おいおい」


 その攻撃をモンスターの身長に合わせて中腰になり盾で受け止めると、悲鳴を上げたゴブリンは痛かったのか右の拳を左で庇うようにして悶絶している。

 そりゃ、言ってみれば木の板を何も着けていない右手で殴れば痛いのは当たり前だ。


 そんなドジな相手に慈悲を与える必要はゼロである。

 右手の剣を上から下に振り下ろすと、その切っ先は敵の左腕に当たった。


『ギャアッ!!』


 先ほどより大きな悲鳴が聞こえ、ゴブリンの左腕からは気持ち悪い緑色の、血液と思われる液体が噴き出した。

 結構深く斬りつけたが、腕を落とすほどではない。

 俺の攻撃から逃げようとしてのか後退る相手に、今度は振り下ろした剣を左から右に横に振る。


『アギャッ!!』

「痛てっ!」


 下がるゴブリンに焦ってしまい、刃ではなく幅がある刀身で殴る格好になってしまった。

 おかげで、俺の右手首にくる衝撃も大きい。

 ただゴブリンの右膝に当たり、ちょうど骨に当たって響いたのか、またもや相手は悶絶してうずくまってしまった。


 更に追い打ちをかけたいが、俺の右手首の状態がわからない。

 そのため盾の下の縁を、上から蹲まる頭に向けて落とす。


『グゲッ!』


 嫌な衝突する音と変な声を上げて、ゴブリンは床に頭を付けるように崩れ落ちた。


「ここだっ!」


 おそらく脳震盪でも起こしたのか動かない敵を見て、俺はとどめに走る。

 硬革ブーツを装着した右足を上げると、かかとをその細い首に叩き付けたのだ。


『グギョ……』


 右の踵に嫌な感触が伝わると同時に、その緑色の肉体が一瞬震える。

 再び右足を上げると、潰れた襟首が目に入ってきた。

 流石に、この状態で生きているわけがない。


(終わったか……)


 予想よりは、遥かに動揺していない。

 まぁ、人型とは言っても外見は人類と全く違うから当然かもしれない。

 理解できる言葉を発していれば、少しは違ったかもしれないが。


「いよいよ最後の宝箱か」


 これまでと変わりなく、ゴブリンの死体の代わりに宝箱が現れる。

 さて、今度の中身は一体何だろうか。

 新しいアイテムが出るか、それともこれまで出たアイテムの別種類なのか。


 期待を持って蓋を開けると光を放って宝箱が消え、見慣れた緑コイン一枚と革製と思われる茶色のショルダーバッグのような物が床の上に鎮座していた。。


「……まだ、マジックバッグは早いよな」


 流石の神運様とはいえ、この時点での収納アイテムは大盤振る舞いし過ぎだと思う。

 そうは思うが、心の隅に微かな期待を持ちながらバッグを持って開けると、中は不思議空間ではなく太い試験管のような物が四本入っている。

 その内の一本を取り出すと、コルクのような物で封をされたガラスのように透明の筒の中に、緑色の液体が入っているのが見えた。


(これはポーションというやつだな。製薬スキルで作れるアイテムか?)


 プレイヤーが作成できるまでは先が長いから、ダンジョンからアイテムとして出るようにしてあるのだろう。


 全部チェックすると、緑色の液体が二本に青色の液体が二本ずつである。

 もっとも、緑色青色とは言っているが、その色はとても薄い。


「……こりゃ、色の濃さで効果が違うとかありそうだな」


 どちらにしろ、これも鑑定サービス行きは決定である。

 片方は傷薬、ヒールポーションだとは思うが、もう片方がわからない。

 MP回復用のポーションか、何らかの状態異常回復用のポーションだとは思うが。


(現状ではMP回復ポーションに需要は無いから、状態異常回復ポーションだといいな)


 毒消し単体や麻痺消し単体とかの個別なシステムなのか、万能薬とかの種類を選ばないシステムなのか。

 鑑定すればわかることか。

 もっとも、俺が予想したポーションではない可能性も残っているけどな。

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