崩れていく境界
朝と夜の境界が、ぼくの中から溶けていった。
目覚まし時計の音ではなく、通知音で目を覚ますようになった。
外の光よりも先に、画面の青白い光を浴びる。
ぼくの一日は、そこから始まり、そこへ戻っていく。
「生活」と「文章を書くこと」のあいだにあったはずの線が、少しずつ曖昧になっていく。
食事中も、入浴中も、会話の途中でさえ、頭のどこかに「次は何を書こうか」という声がこびりついている。
それはぼく自身の声であるようで、実は承認の亡霊の声だった。
気づけば、人の話を聞きながら、同時に文章の構成を考えている。
友人の笑い話すら、心のどこかで「これ、使えるかもしれない」と切り取ってしまう。
その瞬間、友人の顔はぼくの目から遠のき、代わりに文章の断片だけが残る。
現実よりも、文章のほうが鮮やかに見える。
目の前の景色よりも、タイムラインに流れる光景のほうが強く焼きつく。
そして、気づかぬうちに、ぼくは「生きるために書く」のではなく、「書くために生きる」ようになっていた。
だが、その境界の崩壊は、快楽と同じくらい、静かな恐怖を運んでくる。
生活が文章に侵食されればされるほど、ぼくは現実感を失っていった。
まるで、自分が現実という舞台の上ではなく、文章の中だけに生きているような錯覚に囚われる。
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