拡散の毒
ぼくの文章が、ある晩、見知らぬ誰かによって拡散された。
それは、まるで偶然落とした小石が、思いもよらないほど大きな波紋を広げたようだった。
通知の数字が跳ね上がり、画面は息をつく暇もなく更新されていく。
最初は、胸の奥がくすぐったかった。
「こんなにも人が、ぼくの言葉を見てくれている」
その事実が、ぼくを支えていた。
だが、波はすぐに毒へと変わる。
称賛とともに、冷笑や皮肉も混じりはじめた。
知らない誰かが、ぼくの文章の一行を切り取り、「薄っぺらい」と書き捨てている。
別の誰かは、「これ、前にも似たようなのあったよね」と、冷ややかに並べる。
拡散は、光だけを運んでくるわけではない。
それは、闇と光を抱き合わせにして押し寄せる。
しかも、光より闇のほうが、心に長く、深く、残る。
ぼくは、毒を飲みながらも、次の一口を求める自分に気づく。
それは苦しいはずなのに、なぜかやめられない。
まるで、毒のほうが本当の薬であるかのように錯覚してしまう。
そうして、ぼくは毒に馴染んでいった。
恐怖を感じる暇もなく、承認の渇きは、ますます濃く、鋭く、ぼくの中に根を張っていく。
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