第10話→創造神と正義感に振り回された女

創造神シンは静かな面談室の中で、目の前に座る女性をじっと見つめていた。


橘美咲(たちばなみさき)——生前は誰かを助けたいと強く願い、善意を振りかざして周囲を正そうとしていたが、その行為が知らず知らずのうちに人を傷つけ、孤立してしまった人物だった。


「美咲、お前は何を思いながら生きてきた?」


シンの声は柔らかいがどこか冷静で重みがあった。


美咲は視線を伏せ、震える声で答えた。


「私は…いつも、人のために良かれと思って行動していました。困っている人を見れば放っておけず、間違いを正そうとしました。…でも、結果は違いました」


「違ったとは?」


「人は私の善意を、偽善と呼びました。私が正そうとした相手は傷つき、私を避けるようになりました。周囲の人たちからも理解されなくなって、孤独に…」


シンは静かに頷く。


「それがいわゆる偽善というものだ。善意の仮面を被りながら、相手の気持ちや立場を踏みにじることもある。被害者にとっては甘く、華やかな毒とも言える。」


美咲は俯きながら呟いた。


「本当に善意なら、誰も傷つけないと思っていました。でも私のやり方は、押し付けになっていたのかもしれません」


「偽善は被害者の心を蝕み、時には深い絶望をもたらす。お前もそれで心を病み、最後には自分自身を傷つけてしまった。」


美咲の瞳に涙があふれた。


「もっと柔らかくなりたかった。強くなりたかった。でも、どうすれば良いのかわからなかった」


シンは言葉を選びながら語りかける。


「今のお前に必要なのは、自分を許すことだ。そして他者の立場を理解し、相手の痛みを見つめる心。」


「…どうすればいいんですか?」


「孤独を選ぶこともできる。だが本当の強さは、孤独の中で芽生えるものではない。誰かと分かち合い、互いの弱さを受け入れることだ。」


美咲はその言葉に少しずつ希望を見いだし始めた。


「私、もう一度だけ頑張りたい。今度は押し付けるのではなく、共に歩む強さを持ちたい」


扉が開き、見習い神ラニアが慌てて入ってきた。


「シン様! 転生許可証の準備ができました!」


シンは静かに立ち上がる。


「では、お前の新しい人生を始める時だ」


美咲は深く息を吸い込み、決意を胸に光の中へと消えていった。


シンは部屋に残り、呟いた。


「偽善は華やかだが、毒にもなる。だが、毒を知った者だけが本当の強さを手にできるのだろう」


ラニアが不器用に声をかける。


「シン様…私もそんな強さを持ちたいです!」


シンは微かに笑い、答えた。


「強さはお前自身が決めるものだ。努力を怠るな」


部屋の静寂の中、また一つの魂が新たな旅立ちを迎えた。

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