第11話→傷と成長

新しい世界での美咲は、山間の小さな村の一人娘として生まれ変わっていた。

貴族や英雄の子どもではない。恵まれた環境ではないが、素朴で温かい生活が待っていた。


彼女は幼いころから、周囲の人々の表情をよく観察していた。


かつての生で抱えた心の痛みは消えていなかったが、今回は違う。自分の感情と向き合いながら、他者の気持ちにも寄り添うことを少しずつ学んでいった。


ある日、美咲は近所の少年に声をかけられた。


「ねえ、美咲、一緒に川で遊ばない?」


美咲は一瞬ためらったが、笑顔で応じた。


「うん、いいよ」


それは彼女にとって、小さな勇気だった。人と距離を置いていた自分から、一歩踏み出す瞬間だった。


そんな日々を見守っていたシンは、観測窓の前でラニアと話していた。


「見ろ、あの子の笑顔を。かつての偽善の苦しみは彼女を強くしたようだ」


ラニアは嬉しそうに頷く。


「でも、まだ心の奥には傷がありますよね?」


「そうだ。過去は消えない。だが、痛みを受け入れ、他者と分かち合うことこそが真の癒しとなる」


時は流れ、美咲は村での生活を通して、人の弱さや優しさに触れていった。時に誤解や衝突もあったが、彼女は逃げずに向き合った。


ある晩、美咲は星空の下で村の長老と語り合った。


「心の痛みは誰にでもあるものじゃ。だが、それを抱えたまま人を愛せる者こそが、本当の強さを持つのじゃよ」


美咲は静かに頷いた。


「私もそうなりたい」


やがて彼女は村の人々から信頼され、誰からも愛される存在になった。偽善の影は過去のものとなり、新たな幸せが彼女のもとに訪れていた。


シンは微笑みながら、最後に言葉を残す。


「人は一人では生きられない。傷つき、悩み、時に孤独を感じても、誰かと繋がることで救われるのだ」


ラニアは目を輝かせて言った。


「私も、もっと努力します! いつかそんな風に、人を支えられる神になりたいです!」


シンは優しく答えた。


「それができれば、十分だろう」


静かな観測室に、新しい生命の息吹が満ちていた。

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