第2話《名前しか覚えてない》
前書き
気がつけば、知らない空の下。
木が青く、建物は石で、人々の耳はとがっていて――
ここは明らかに、俺のいた世界じゃない。
だけど、俺は生きている。
手には力が入るし、足も動く。
俺の名前は、アキラ。
それだけは、なぜか確かに覚えている。
本文
《名前しか覚えてない》
「……あなた、大丈夫? こんなところで」
耳にやさしい声が届いて、俺はゆっくりと目を開けた。
まぶしい空。見たこともない白と金の衣。
その奥に、女性が一人、心配そうに顔を覗き込んでいた。
ゆっくりと体を起こす。
寝ていた場所は、木の根元。広場の端だろうか――街のような風景が目に入る。
空が、妙に青白い。
見上げた木は、葉の色が青というより、緑に近い青――青磁色というべきか。
街を行き交う人々の服はどれも質素で、だが不思議と華やかさを感じた。
そして何より――耳が尖っている。
どこか、物語の中の世界のようだった。
でも、それよりも奇妙なのは、俺自身だ。
手が小さい。足も短い。
地面を支える感覚が、あきらかに“子ども”のそれだった。
「あなた、名前は?」
もう一度、声がかかる。
「……アキラ」
気づいたら口にしていた。
それだけは、すっと出てきた。でも――
「それ以外、何も……思い出せないんです」
女性――シスターだろうか。彼女は少しだけ驚いたように目を丸くして、それからふっと微笑んだ。
「よかったら、うちにいらっしゃい。困っている子どもたちを保護しているの。あなたみたいな子も、たくさんいるのよ」
その手は、あたたかかった。
名前しか覚えていない少年の、新しい生活がはじまろうとしていた。
魔法の世界の住人、魔法が使えず、今これ。
後書き
誰も知らない街で、名前しか覚えていない状態で目覚めたアキラ。
彼が出会ったのは、優しい声とあたたかな手を差し伸べるシスターだった。
ここから、静かでにぎやかな「魔法の使えない日常」がはじまる。
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