第34話 陛下
徳仁天皇は一週間前に受けた天照大御神からの啓示を受け、この一週間の間、ヤトの出現に依り日本社会が崩壊する様を忸怩たる思いで見守って居た
啓示に従い、自衛隊に有事の備えとして水と食糧、医薬品の備蓄を準備させたが、一週間が経過し、国際会議が開かれる迄、沈黙を保つ様にと言う御言葉に従った
ヤト出現に依り、世界がどの様に動くか
天照大御神は全てを見抜いて居られた
日本を日本で無くそうと言う売国議員の企みも、まんまと国内に潜入した志那の工作員に依るテロリズムも、多数の国民の犠牲も何もかも、そして天皇自らが、日本国を「神と共に生きる国」の選択を全世界へ宣言する事も
誤解から、「神国日本」は敗戦前の軍国主義の復活であると糾弾されたが、バチカンのローマ法王とは環境保全に関して協力関係を取り付ける事が叶った
意外な事に、ホメイニ指導者やプーチン大統領、OPEC参加国主脳陣も環境問題解決の為の協力は約束してくれたのだ
80年前の「戦勝国」であるアメリカ、フランス、志那、南北半島は日本が軍国主義へ回帰する事は断じて認められないと主張するが、結局は国際協議の場に於いて日本が環境問題解決のリーダーシップを取る事を認めたく無いのだろう
全てが天照大御神の啓示通りに進んで居た
宮内庁はもとより、側仕えである侍従や女官の中にも、「日本人では無い」者が侵入していると伝えられた
「神国」宣言に伴い、警務官は厳選された上、自衛隊から特戦群が派遣される事に為った
其処まで事態が進んだ時点で、全世界が停電に見舞われたのである
「私はまだ日本国民に対して、語らなければ為らない言葉を伝えていないと言うのに …… 」
「陛下、今は非常時です。通信手段が回復してから考えましょう」
習志野から赤坂御所まで自転車で急行した東雲達特戦群50名は、休憩する事も無く直ちに警務隊と共に有事体制に備えた
都内は無人化が進んで居たが、天皇陛下自らの「神国」宣言に対し、どの様な過剰反応が有るか分からない
上皇上皇后両陛下の警護も兼ねられる赤坂御所に居られた事は僥倖だ
移動手段が徒歩か自転車に限られるとは言え、東雲達も千葉の習志野から東京の赤坂まで来れたのだ
確信犯的主義者が、何をしでかすか不明だった
そして、神託の通り
天照大御神はお隠れに為られた
世界は闇に包まれた
朝は訪れる事も無く、夜空に輝く筈の月も暗く星の光を遮るだけだった
その日、上皇に拝謁し天照大御神より神託を受けた事実を初めて伝えると、大層驚かれたが
「君が選ばれたのだから、為すべき事をしっかりやりなさい」
と支えられた
御所内で放火未遂と陛下の食事への毒物混入事件が4回発生したが、全て未然に食い止めた
巧妙に仕掛けられて居た超小型隠しカメラや盗聴マイクの数々も、電気運動が止まっている為作動しないが、此等も東雲達が発見次第排除していった結果、怪しい侍従と女官合わせて8名の身柄を確保出来た
闇に乗じて御所内に侵入を試みた不審者は、尽く排除された
無線やセンサー、暗視装置も使え無かったが、そう言う場合も想定した訓練の賜物であり、吠えない様に特別に訓練された警備犬の活躍も大きかった
世界が闇に包まれた3日後
再び太陽はその姿を現す
その間
地上の平均気温は15℃下がり
海水温は8℃下がった
海流は変化し、全地球的規模で気候変化が始まった
ヤトがこの世に現れてから10日後の事である
人類はその主義主張に関わらず「神」の実在を認めざるを得なくなった
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