第33話 終末
雷禅が世界中の電気を止めるまで、地方に逃げて居た国会議員達は、石田総理が倒れ、猿渡統合幕僚総監が臨時総理代行を名乗り自衛隊を運用していた事実を「クーデター」であると糾弾したが、次の総理大臣を決める前に猿渡が売国議員の極秘調査資料をネットに公表してしまった為、総裁選挙処では無くなってしまった
野党も多数の議員の売国行為の証拠が挙げられており、移民党とまで陰口を叩かれていた与党に対し政権交代を訴える立場ですら無くなっていた
そこへ雷禅の世界規模の停電である
電気エネルギーを発生させる事が出来ないと言う事は、火力発電所でタービンを回しても電力は得られないと言う事だ
勿論、エンジンも燃料を爆発させるスパークを発生させられないので、作動しない
世界中の人々が通信と移動手段を喪失した
疑惑を掛けられた議員達は、身の潔白の言い訳をしたくても出来ない状況に追い込まれ、日本国民は通信が途絶する直前に発表されたスキャンダルだけに囚われる結果となる
「まあ、世界一高額な報酬を独占してた連中だからねぇ、いっそ全部クビにして、陛下が国を仕切れば良いのよ」
独りで何もかも出来る訳は無いので諏訪子の言う事も暴論だが、日本の国会議員なのに、日本人の為に仕事をしない人間は必要無い
「電気さえ復活すれば出来るよ」
「え?」
日下部が意味有りげな顔で続ける
「国家運営に必要な情報を叩き込んだAIを導入すれば、陛下御一人でも国の舵取りは可能さ。なんなら多過ぎて天下り先ばかり作り続ける、寄生虫の官僚も必要無い。政治に金が掛かるとか言うけど、そもそも金の掛け方がおかしいのさ」
「そんな …… 」
「地方自治体も同じさ、愛知県知事も名前が挙がって居ただろう?それでも落選しない仕組みが出来てるんだよ。県民の10人に1人が外国人で、帰化手続きさえ終われば選挙権が与えられるなんて間違ってるよ。これからは現場で動く実働部隊だけで、管理職は不必要になる」
「 …… 先生?もしかして、そのAIシステムって既に完成させてるとか?」
「おっ、鋭い!流石我が教え子♪まぁ、そうは言っても電気が無けりゃ意味も無い只の数字の羅列に過ぎんがね … 」
チラ、と雷禅を見る日下部
「そんな眼で見ても無駄だ、いっその事、世界の人口が万分の一まで淘汰されれば良い」
平然と数十億人を死ねば良いと発言する雷禅
「諏訪子、貴様には解るだろうが、太陽神で在られる天照大御神様とは、即ち世界中の多神教で崇められる太陽神と同一である。此処ヤマトの国では天照大御神として、また他の国々では其々の信仰に応じてラー、アポロン、ソルと呼名も姿も変わる」
諏訪子は頷く
考えてみれば、キリスト教もイスラム教もユダヤ教も一神教と言いながら同一の神様を信仰している癖に、互いを認めないなんて馬鹿げてる
それにしても、このまま物流が停止した状態では、冗談抜きで今週中には数十億人が飢餓と殺し合いで死ぬだろう
増え過ぎた人間社会とは、それ程までに脆弱だった
この駐屯地だって、食糧の備蓄が無限に在る訳じゃ無い
だがヤトを始め、雷禅様も世龍乱様も、電気運動を回復させる積りは無さそうだった
各宗教で予言されて居た「終末」が訪れたのだ
その頃、ドナルド ・ トランプ大統領は一切の政治執行手段を閉ざされた事に腹を立て、ホワイトハウスの執務室で書類をブチ撒け、ヒステリックに大声で喚き散らして居た
ウラジーミル ・ プーチン大統領はクレムリンの周りを兵士に厳重にガードさせ、やはり執務室に閉じ籠もり頭を抱えた
両国共に、世界中で飛んでいた航空機は墜落し、潜水艦を含む艦隊は航行不能に陥り海流に流されるままに為っていた
蒸気機関車と徒歩以外に部隊展開が出来ない以上、戦争継続など不可能である
ロシア • ウクライナ戦線では全ての通信手段が途絶、車両も動かす事が出来ずドローンさえ全て使い物に為らなくなった
互いに相手国の新型戦略兵器では無いかと警戒して居たが、前線の兵士達は補給も受けられず、弾丸が尽きると互いに徒歩で退却し始める長い列が出来た
ガザを空爆していたイスラエル空軍のF-16は全て墜落し、飛翔中だったミサイルも制御不能に陥り目標外に落ちたが、電気信管が作動しなかった
ヤトが「火」を止めて居ない為に、電気信号に頼らない小火器や榴弾砲、迫撃砲等は使えたものの、それらを運搬する手段は人力に限られた
蒸気機関車は動くものの、線路上には停止したままの電車やディーゼル機関車が立ち往生している
皮肉な事に、こうして世界から戦争が消えたのである
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