第8話 少女


 月がでているとは言え、夜の山の中を歩くのは危険が伴う

 佐伯を先頭に諏訪子と東雲が後に続く


 木々の根や石が転がる斜面は枯葉で隠され、不整地踏破の訓練を受けていない一般人の諏訪子にとっては、ほんの数分歩いただけで重労働である


「諏訪子さん、やはり戻った方が良い」


 東雲二尉が心配して戻る様に言うが、諏訪子は頑としてドラゴン少女墜落現場へ行くと言ってきかない


「貴方達みたいな戦闘狂バトルジャンキーには任せておけません!」


「やれやれ、下手に撃墜なんかさせるから …… 」


「は?俺のせいですか!?」


 先頭でマチェットを振り回し蔦や枝葉を切り開き進む佐伯が文句を言う


「ハッキリ言います、素人の貴女を連れて現場へ向かうことは無理です。我々には貴女の安全を担保する責任があります」

「でもっ!」

「現場責任者として、今夜の調査継続は許可出来ません。明日、明るくなってから改めて出直しましょう」


「それで、あの子が死んでしまったら?」


「それでも …… 二次災害の危険を承知する事は出来ません」

 自衛官だけなら、危険を承知で捜索を継続したであろうが、民間人である諏訪子の生命を危険に曝す訳にはいかなかった


「我々は特戦群レンジャーです。彼女は必ず見つけます、どうか信用して下さい」


「 …… 分かりました、でも明日は私も付いて行きますから!」


 なんとか諏訪子を宥めて家へと戻ると、麓から上がってきた応援部隊が合流して情報が共有される


「 …… 不味いな」


「どうされました?」


 佐伯によるドラゴン撃墜の報告だけが先行してしまい、官房長官がTVで「ドラゴンは自衛隊に依り駆除されたので、危険は有りません」と大々的に世界へ向けて発表してしまった


 凍結された経済の回復と、地に落ちた政権の不信感を払拭したくて、不確実な情報に飛び付いた結果である


「馬鹿じゃ無いの!信じられない!?」

「中部方面隊からドラゴン捜索の為に2個中隊が派遣されますが、それよりマスコミがヤバいでしょうね」


「二尉、統合作戦本部からの情報では、米軍特殊部隊も此方へ向かってるそうですよ」


 不意に深夜の山岳地帯上空を、米軍のF-22が轟音を立ててフライパスする

 恐らく現場撮影の為だ


「山の入り口を封鎖しろ、獣道一つ見落とすな」

「はっ!」


 未知の新生物を手に入れるチャンスだ

 当然、世界中が注目している

 米軍だけで無く、既に国内に入り込んでいる志那の特殊部隊も黙って指を咥えてる訳が無い


「二尉、神崎補佐官からです」

 東雲は無線を代わる

「東雲です」

「ドラゴン撃墜ご苦労、今夜の内に、其処は最前線に為るぞ。支援部隊2個中隊は陸路だから現着は明朝だが、特戦群をオスプレイで向かわせる。合流して事に当たりたまえ」


「 …… 了解です。あまり不確実な情報を垂れ流さない様に、政府に釘刺しといて下さいよ」


「残念だな、三島先生が生きて居られたらこんな国には為って居なかっただろうに」

「無線でとんでもない事言わない方が良いですよ?」

「君は直接お会いした事が無いからそんな事が言えるんだよ」

 

「どうでも良いですけど、現場周辺の封鎖を徹底させて下さい。警察も志那が入り込んで信用出来ません」

「上空も飛行禁止区域に設定させよう」


「お願い致します」


 側でやり取りを聞いていた諏訪子は急ぎ家に戻ると、必要な機材をコンパクトに纏めた


 何がどう言う理屈が判らないが、少女がドラゴンなのは間違いない

 彼女は航空機の邪魔をしただけで、直接人間を傷付けた訳でも無いのに、人間の身勝手で人類の敵にされてしまい、傷付いて夜の山中にたった独りで居るのだ


 明日にはここは戦場に為るだろう


 何としても、その前に少女を助け出したかった

 


 


 

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