第9話 それは勇気か


 暫くして麓の町にV-22オスプレイが着陸し、軽戦術全地形車両LTATV2台と特戦群隊員12名が新たに合流する


「何だ、LAV軽装甲機動車じゃ無いのか」

チヌーク大型ヘリじゃ無えから積めねえよ、文句言うな」

 自衛隊では川崎重工製MULEも有るが、今回は搭乗人数の多いLTATVを運用している


 此等の戦術軽車両は不整地走破能力に長けた丈夫なゴルフカートみたいな戦闘用バギーで、LTATVは6名乗車可能であった

 但し防弾仕様では無く、フレームのみで構成された車体は敵の銃弾を容易く素通りさせる


 今回の作戦はあくまでも速度重視で、輸送量に優れるチヌークでは無く高速飛行可能なオスプレイが使用されたのだ


「政府が不用意にドラゴン撃墜を公表したお陰で、米軍から志那の特殊部隊まで相手にしなくちゃならねえ、気合入れろ!」

「明日には応援が到着するが、それ迄にドラゴンを確保するぞ」


「2名が連絡要員で待機、残りはスリーマンセル4班に別れて山狩りだ、佐伯、行くぞ!」


 東雲はこれから捜索の為に山へ入る事を、一言諏訪子に伝えようと家を尋ねるが、既にもぬけの殻だった


「 …… あの馬鹿!?」

「あれ彼女、行っちゃいましたか」

「傾注!民間人女性が1人山へ入った、間違えて撃つなよ!」

「「了解」」


「しかし、確かにこれまで飛行機に接触したり人間に危害を加えて来なかったから、レーダーに写らなくて幻じゃ無いかと騒がれもしたけど、LAMで撃墜出来たって事はちゃんと実体が有ったって事ですよねぇ」


「 …… 撃ち落とした当人が何を呑気に … 念願のドラゴンスレイヤーに成れたんだ、満足だろ?」


「いや、あの子の姿思い出したら何か罪悪感が … 」


「分かってて撃った癖に何言ってやがる」


 とは言いながら、ヘリが危険な状況で自分も撃たなかったかどうかは自信は無い

 仲間の生命が危機に晒されれば、トリガーを引いていたのでは無いか?


 東雲は雑念を振り払う様に自分の頬を叩くと、夜の山へと足を踏み入れる


 プープープー!

 降下地点上空に差し掛かった合図が機内に響く


 米空軍のC-130輸送機の後部カーゴベイから続々とデルタフォース米陸軍特殊部隊の精鋭が宙に躍り出る


 NOTAM飛行禁止区域にも関わらず自衛隊のUH-60JAとオスプレイが此処へ来た事は米軍のレーダーで確認済みだ

 其処へ日本政府のドラゴン討伐発表


 一週間前から日本入りして待機していたデルタフォースの面々は、やっと来た出番にヤル気満々で夜の闇に覆われた山へと向かう


「撃墜したって事は、やはり物理的に実体が有った訳ですね」

「そうだ、生物ならば殺せない訳が無い。何故レーダーや赤外線で捉えられないのか、死体でも分析すればステルス技術が大きく進化するだろう。何としても我がアメリカが手に入れなければならん」


 ブラックスター2等軍曹がSBSドローン携行センサー無人航空機を飛ばし、LLDR軽量レーザー目標指示測距装置のデータを確認する


「少佐、山間部での移動熱源多数感知 …… 恐らく自衛隊のSですね、目標のドラゴンはやはり感知出来ません」


「ふむ … 想定内だ、最先端装備は我々が有利だが諸君、油断せずに行こう」

 フェラルド少佐率いるデルタフォース8名が暗視装置を頼りに闇の中を進む


「二尉、南側から移動熱源8、輸送機が飛んでましたから米軍特殊部隊かも知れません」


「あー、おいでなすったか。思ったより早いな」

「アイツ等、一週間前から待機してましたからね」

「山麓に入ると無線も届き難くなる、各員警戒を厳とせよ」

「了解」


 その頃、斜面で盛大に足を滑らせた諏訪子は、足を痛めて動けなく為っていた

「痛っ!」


 立とうとすると足首が酷く痛む

「トチったなぁ、折れてるかしら?」

 諏訪子はリュックからアイスパックとバンテージを出すと、落ちていた枝を添え木にして患部を締め付ける


「いてててて … 」


 その時、暗闇の中から物音が聞こえる


「えっ、何!?」

 

 


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