第7話 飛龍


 1時間後、木更津からやって来たUH-60JA軍用ヘリコプターのローター音が山間部に木霊する

 バタバタバタバタバタバタバタ ……


 パチッ


 いきなり目を覚ました少女は諏訪子の家を飛び出すと、ヘリが飛来する方向を見据える


「しまった、逃がすな佐伯!」

「言われなくても … !」


 しかし、少女を捕らえようと続けて飛び出した佐伯の両手は空振る

「は?」


 まるで黒い靄にでも包まれた様に、少女の姿は10mほどの漆黒のドラゴンの姿に変化して、翼を拡げると大空へ飛び立つ


「嘘っ!?」

「ドラゴン!?」

「あの子が?」

 諏訪子は驚きながらも、咄嗟にカメラを向けて夢中でシャッターを切る


 バシャシャシャシャシャシャシャ!


 バタバタバタパタパタパタパタタターーー

「ペンドラゴン、此方ナイトホーク、現着まで後5分送れーーザッ!」

 ドラゴンを警戒して、夜間の山並みを縫う様に低空飛行で侵入して来たUH-60JAのパイロットが東雲二尉に連絡する


 高機動車の無線機にヘリコプターから通信が入る

「此方ペンドラゴン!ドラゴンだ!高度を下げろっ!!」


 ヘリコプター内に緊張が走る

 ドアガンナーがヘリ側面に固定されたM-2重機関銃の装填桿を引き、射撃準備を終えた

 ヘルメットに取り付けられたGPNVG-18暗視装置ナイトビジョンゴーグルの暗緑色の視界でドラゴンの姿を索敵する


「ナイトホーク!ドラゴンは赤外線にも反応しない、注意しろ!」


 余りに高度を下げると、山の木々にぶつかりかねない

 ましてや夜間飛行だ

 パイロットは視界確保の為に赤外線ナイトビジョンを装着、コ•パイロット副操縦士は肉眼でドラゴンの姿を警戒する


 ヘリコプターの灯火が視認出来た

 佐伯二曹はフラッシュライトで着陸地点に誘導する


 東雲は高機動車の後部からMINIMINI支援軽機関銃を引っ張り出すと、200連発のベルトリンク給弾弾倉を装着し、ボルトを引いて射撃準備を終える


「東雲二尉、まさかあの子を撃つ積りですか?」


「場合によっては仕方ありません」


「子供ですよ!?」

「しかし人類にとっての脅威です」


「全て、人間の都合じゃ無いですか!」


 ナイトビジョンを外したUH-60JAのドアガンナーがドラゴンを視認して、M-2重機関銃のトリガースイッチを押す

 ズドドドドドドドドドドドドドドド!!


 国際戦争法で対人使用が禁止されている.50口径弾が、ドラゴン目掛けて放たれるが、身体を巧みにくねらせて弾幕を回避された


 既に米軍が試した事だが、レーザー誘導や赤外線誘導ミサイルは、全て目標を追尾出来なかったと報告が上がって居る


エクスカリバー聖剣の出番だな?」

 佐伯二曹が110㍉対戦車砲LAMを引っ張り出すと、先端のプローブを延ばしドラゴンに照準を合わせようとするが、早過ぎて追い付けない


「佐伯さん!貴方はまたーー」

「えっ?」

 佐伯は声を掛けられ余所見をした拍子にロケット弾を発射してしまう


 バシュウウゥゥゥーーーーーー

 ズドンッ!!

「あ、当たっちゃった … 」


 奇跡的に対戦車徹甲榴弾が命中して、ドラゴンは錐揉み状態で山中に墜落する


「馬鹿あーーーーっ!人でなしーーーー!!」


 そう言う諏訪子も、事の顛末を全て撮影していた

 堕ちたまま飛び立って来ないのを心配した諏訪子は、LEDライトを手に墜落現場へ向かおうとするが、東雲二尉が腕を捕まえて止めた


「こんな夜間に、独りで山へ入るなんて自殺行為です!」

「あの子を放っておけと言うんですか?」


「手負いのドラゴンです、危険が伴います。我々が責任持って対処します」

 

 諏訪子はチラと佐伯を見てから

「信用出来ません、私もご一緒します!」


 東雲はぐうの音も出なかった

 

 

 

 

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