新人冒険者ナベマキ

@tonkento

香水 第1話


 冒険者ギルドの受付嬢にこんなことを言われる。


「冒険者としての登録が完了しました。職業は剣士で間違いないでしょうか?」

「・・・・・・間違いない」


 本当は魔法使いになりたかったが、どうやら俺にはその才能はなかったようだ。

 受付嬢はこう続ける。


「依頼はあちらの掲示板から選んでください。初心者の冒険者は薬草採取や、スライム討伐など簡単なクエストを受けることにができます。あと報酬は少なくなりますが、ソロ活動よりパーティを組むことをお勧めしています。何か質問はありますか?」

「そうだな。今晩、食事でもど・・・・・・・・・」

「説明は以上とします。ナベマキ・ハルさん、今後のご活躍を期待しています」


 俺が言い終える前に話を終わらせた。この受付嬢、隙がない。

 ギルドで支給される初期装備(短剣、回復ポーション)を貰い、俺はさっそくパーティーメンバーを探すことにした。

 ほとんどの冒険者は朝からクエストを受けて街の外に出ているため、ギルド内に冒険者は少なかった。

 冒険者ギルドに残るのは、生活に余裕のある者か、昼間だというのに酒を飲む酔っぱらいだけだ。

 今は仲間探しはやめようとした時、ふと気になる女性を見つけた。

 彼女はテーブルの横に杖を立てかけて、分厚い本を読んでいた。歳は俺と同じで17歳だろうか。魔法使いの格好をしており、背中を銀髪で隠している。背は小柄だが、知的な印象を与える顔をしている。

 とても美しい女性だと思った。

 俺は下心を隠しつつ、さっそく彼女に話しかけた。


「えっと、そこのお嬢さん。俺とパーティを組んで欲しい!」


 俺が頭を下げると、彼女は本を読むのをやめた。


「構わんが・・・・・・・お嬢さんはやめてくれ。私の名前はラッカオ・リンだ。魔法使いで、後方支援をしている」


 ラッカオは簡単に自己紹介を終えた。


(俺が剣士で彼女が魔法使い、絵に描いたような理想的なパーティだ。これから俺とラッカオの冒険者生活が始まるってわけだ)


 俺はそんなことを考えていると、ラッカオが座る席だけ異臭がすることに気がつく。

 とにかく臭い。

 俺は妙な臭いを感じ取ったことを、彼女と共有しようとした。


「・・・・・・・・なんだか人参臭いな」 


 俺の言葉に、ラッカオは少しムッとする。

 その顔を見て俺はハッとする。臭いの発生元が彼女であることを悟る。

 このままでは、彼女に失礼だ。

 慌てた俺は、好感度を上げるため彼女の匂いを褒めることにした。


「良い匂いですね。その人参臭」

「くたばれ。キャロットの香りと言って欲しい・・・・・・・・・それで、君の自己紹介はいつ始まるのかな?」


 そう言われた俺は、ラッカオと向かい合うように座った。


「おっと、まだ名乗ってなかったか。俺の名はナベマキ・ハル。将来の夢は料理に毒を入れて魔族の王を倒すことだ」

「料理に毒・・・・・・・・驚いた、えらく具体的だな。もしかして、将来は殺人者になるのか?」


 ラッカオはニヤニヤしながら俺のことを見てくる。

 魔王を倒すということが殺人者という表現は言い得て妙だ。

 だが、俺は罪人になるつもりないため、ラッカオにはっきりとこう言う。


「・・・・・・・・・殺人者はやめて欲しい。何だが、俺が悪い奴に思えてくる」

「では、何者になる」

「英雄になるんだよ」


 俺が自信を持って答えると、ラッカオは呆れた顔をする。


「英雄って・・・・・・・・・君が着ている装備は、ギルドで貰える初期装備じゃないか」

「羨ましいだろ?」

「いや、全く」

「即答だな」


 ラッカオは表情を柔らかくして、子供に質問するように俺にこう尋ねる。


「ナベマキくん。君は魔物を倒した経験はあるのかな?」

「ない」

「剣や魔法を使ったことは?」

「ない」

「将来の夢は何だっけ?」

「魔王を倒して英雄になる」


 ラッカオは俺の返答を聞くと、ギルドの出入り口の方を指差した。


「出口はあっちだ」


 俺は席から立ち上がり、声を大にする。


「ちょっと待ってくれよ。俺の冒険者人生を否定しないでくれ!」

「唾を飛ばすな、汚らわしい」


 ラッカオはイライラしながらハンカチを出し、顔を拭き始める。

 俺はまだ感情を抑えきれず、ラッカオにまた唾を飛ばすほどの声を出す。


「必死に考えた俺の将来の夢を、ここまで侮辱されたのは初めてだ」 

「・・・・・・・・・侮辱した気はないが、私の発言で君の気分を害してしまったようだな。謝りたい気持ちでいっぱいだ。それより、本当に魔王を倒そうなんて考えているのか?」


 ラッカオの言いたいことは分かる。魔王とはそれほどの実力者だ。

 だが、俺は金が欲しい。

 魔王には懸賞金があり、倒せばすぐに億万長者になれる。

 大きな屋敷を買って、美しいメイドと一緒に暮らすんだ。

 だから俺は絶対に諦めない。


「そうだ、俺は魔王を倒す。難しいことだと思うが、俺をやりとげて見せる」

「・・・・・・・・もしかして、何か特別な能力とかあるのか?」

「ある」


 と格好をつけてみたが、内心かなり焦っていた。

 俺に能力なんてないし、そもそも魔力もほとんどない。


「どんな能力なんだ?」


 ラッカオは興味があるようだった。

 そんな機体した目で、俺を見ないでくれ。

 能力はありません、と素直に謝ろうかと思ったが、俺はハッタリをかますことにした。

 罪悪感から、どうしても彼女の顔を見ることができなかった。


「・・・・・・相手の手を握ると、心が少し読める」


 俺はゴニョゴニョしながら答えたが、その姿はラッカオから見れば自分の能力に自信のない姿として受け取られた。

 そのため、ラッカオは俺に優しく話しかけてきた。


「恥ずかしがることはない。素晴らしい能力じゃか。戦闘では使えそうもないが、場合によっては役に立つこともあると思う。君が良ければ、今ここで試して欲しい」


 俺に相手の心を読む能力なんてないが、とりあえず手と手を合わせてみた。

 俺とラッカオの手が触れ合うと、自分の心臓の音が耳元で聞こえてきた。

 彼女も同じ気持ちではないだろうか?

 俺はラッカオの顔を見て、同じ気持ちかどうか確かめる。


「ドキドキした?」

「乙女か、君は」

「当たっろ?」

「ドキドキしてたのは、私でなく君の方だろ。残念たが、手汗が酷いなという感想しか出てこないな」 


 ラッカオはハンカチを折り直し、また手を拭き始めた。


「そんなに拭かなくても、いずれ落ちるのに」

「今、吹くことが重要なんだ」

「それで、あんたは俺とパーティを組んでくれるのか?」


 大事なことだった。彼女に話しかけた理由はナンパをするためでない。仲間になってもらうためだ。香水の匂いが強烈だが、そこに目を瞑れば文句なしの人物だ。

 だが、彼女が新人の俺とパーティーを組んでくれそうもない。

 断られると思っていたが、ラッカオの返答は意外なものだった。


「組むわけないだろ・・・・・・・・・と、言いたいところだが、私もパーティーメンバーを探していた所だ。新人の育成も、先輩の務めでもある。まずは簡単なクエストからだな。冒険者の先輩として、手取り足取り教えよう」


 感動したよ。

 なんて優しい人なんだ。


「それは助かる。これからよろしくな!」

「落ちないな、これ」


 俺は握手をするため手を出すが、ラッカオは自分の手を磨くとで忙しそうだった。

 しかし、こんなに簡単に仲間が見つかるとは思わなかった。しかも、美人ときた。今晩あたり食事にでも誘って、お酒を飲み交わして良い感じになれるかもしれない。むふふ。

 冒険者生活が始まり浮かれる俺は、この後に真実を知ることとなる。ラッカオが俺とパーティーを組んでくれた本当の理由を。

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