第20話 不思議な出会いの飴細工
不思議な出会いの飴細工
タクシーに乗って駅まで行き、駅を乗り継いで辿り着いた東京は人混みで蒸していた。
「熱いー」
「くそ、何処か入ろう」
俺は飴の手を引いて近くの公共施設に入る。高校生がこんな大荷物で、しかもかなり目立つ容姿をした女子を連れていたらそりゃ視線を浴びる。が、さすが東京。色んな人がいるのに慣れているのか、そこまで視線が痛くないしこちらをチラリと少し見ただけで皆興味を示さない。
「ここからどうする」
「リアル鬼ごっこの始まりだ」
「ケイドロだな」
「ケイドロ?」
「警察と泥棒。名前が違うだけで鬼ごっこみたいなもんだ」
「そっちの方が合ってるね。リアルケイドロが今始まってる」
「捕まったら即終了」
「スリルがあるね」
「人生を賭けたスリルな」
呑気にそんな話をする。飴にどこに行きたいか聞くと、飴はスマホのメモ画面を見せる。
「私が行きたい場所、やりたい事リスト~」
「おー」
「まずはタピオカ飲んで、マカロン食べて、可愛いアイス食べたい!」
「よし、じゃあ回るか」
俺たちは大荷物を持って歩く。この荷物は修学旅行中の学生だと思われているのか、特に声もかけられずにタピオカを飲んで、マカロン買って、アイスを買って食べる。それら全てがすっごく甘ったるくて、多い量を食べていないのに満足感が凄い。
沢山歩き回り、疲れた体を休める為にベンチに座ると飴が俺に聞く。
「ねぇ、泊まるところどうする?」
「普通のホテルは親の同意書が無いと泊まれない」
「面倒くさいね」
「だから考えたのが、普通に路上とか公園で寝るか、空港とか駅で寝泊まりするか」
「それしかなく無い?」
「まぁな。どこかに泊めてもらう手もあるけどそれだと色々聞かれそうだし」
「だよねー」
これからのことを何となく決め、俺らは重い荷物をまた持って歩く。東京にも都会じゃ無いところがあるようで、歩いていたら人通りが少なくなってきた。
「ここは静かで良いね」
「な」
かなり歩いたところで俺たちは一休みする。近くにベンチがないから道の端っこで。すると、ある老夫婦に声をかけられる。
「あら、大丈夫かい?今は暑いしほら、水分補給」
「あ、ありがとうございます」
俺と飴は麦茶を貰い、それを飲み干すと老夫婦は嬉しそうに微笑む。
「良い飲みっぷりだねぇ。どうしたんだい、こんな東京の田舎に」
「…………い、家出で…」
流石に修学旅行と言ってもバレてしまうと思い家出だと言うと、二人は顔を見合わせる。
「なら、私たちのところに来るかい?」
「え?」
「私たちは小さいけど民宿を営んでいてね、人も居ないから」
「で、でも、親の許可書とか必要じゃ、」
「良いんだよぉ、本当は必要だけどねぇ」
老夫婦は笑い合うと俺らを案内してくれる。案内されたところは小さいが奥行きある良いところで、俺たちは恐る恐るそこに踏み入れる。
「部屋は分けるかい?」
「いえ、一緒で」
「はい、これ鍵ね。いつまでも居て良いからね」
「急なのにすみません、ちゃんとお金は払うので」
「ははは、良いんだよぉ、私たちにもそんな時期があったからねぇ」
俺は鍵を持って飴と一緒に部屋に行く。2人部屋だと言っていたが、なんか随分と広い気がする。
「ひろ~い!私旅行とか、お泊まりとか初めて!」
「俺も。す、すごい、」
俺と飴は素直にこの状況を楽しんでいた。一緒に机の上に置かれていたお茶菓子を食べたり、ベランダから見える緑を楽しんだり。飴がテレビをつけると、そこには俺の父が映っていた。飴はすぐにチャンネルを切り替えようとするが俺は止める。
「見てみようぜ」
「いいの?」
「今頃焦ってるかも」
見てみると、御石聡の息子である御石伊聡が行方不明だと表示されていた。そのインタビューに父が答えている。
「ああ、本当に心配です。一刻も早く見つかることを祈っています」
本当はそんなこと思ってないくせに。いや、思ってはいるか、自分のために。俺は焦ってるアイツの姿が見れたのが満足で、笑みを溢すと飴も笑う。
「少しは一矢報いた?」
「ああ、本当に少しな」
「もっと報いてやろうよ」
「そうだな」
俺たちは笑い合ってそのまま部屋を探索する。ここには何があるとかそういうのを確認した後、俺と飴は特に理由も無く下に降りようと階段に足をかける。
すると、背の高めの金髪の男性と鉢合わせる。襟がダボダボの白Tシャツと青の短パンで、髪は肩くらいまであってハーフアップで小さなお団子を作っている、多分20代後半くらいの人。
「こんにちは」
俺が挨拶をすると、その人もぺこりと頭を下げる。タバコを咥えていたから多分休憩しようとしていたのだろう。俺は邪魔しないようにその場を通り過ぎようとした時、その人に話しかけられる。
「お前、御石伊聡だろ」
その言葉にドクリと心臓が嫌な音を立て、こめかみに嫌な汗が伝う。
「別に何もしないぜ。だから睨むのやめてよね、嬢ちゃん」
その人はわざとらしく両手を挙げて降参ポーズをとる。俺が飴の方を振り向くと、飴はキッとその人を睨みつけていた。
「そういう嬢ちゃんこそ、なーんか誰かに似てるんだよなぁ。…………あ、流麗月晶だ」
その言葉を言った時、飴は思い切り顔を顰める。
「アイツのことを言わないで」
「ああ、娘か」
この人、刑事か何かか?俺たちの動作と言動で全てを導き出して当てている。俺たちは今絶体絶命的な状況なのに、その人はヘラヘラと笑ってこの状況を楽しんでいる。
「家出かぁ?ただ、それだけじゃ無い気もするが」
「詮索しないで下さい。するなら容赦しない」
飴が言うと、その人はタバコを口から外してスッと静かな視線を向ける。
「別に、俺に関係ないし。ただ気をつけろよ。あの2人は気づいても何も言わないと思うが、ここを出たらみんなお前たちの敵になるぞ」
「……分かってます」
「ハッ、ここにいる限りは俺も味方になってやるよ。ただし、その度タバコくれよ」
「未成年はタバコ買えません」
「近くにタバコの自販機があるんだよ、そこで買えば良い。これ、銘柄」
その人は俺にポンとタバコの空箱を渡す。俺はそれを持ってその人にぶっきらぼうにお辞儀をする。
「分かりました。ちゃんと助けてくださいね」
「ふー、生意気なガキだな、俺大好き」
その人はわざとらしく口笛を吹くと外にタバコを吸いに出てしまった。
「やな感じ」
「でも味方だってよ」
「本当かどうか分からない。しかも伊聡のことガキだって、ふぅう!」
飴は威嚇をする。そんな姿が可愛いなと思いながら俺は飴の手を引いて階段を駆け降りた。
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