第二話:冷蔵庫を開けると

暑いあつなつよるだった。あつさに耐え(たえ)かね、ぼく冷蔵庫れいぞうことびらけた。冷気れいきかおに当たる(あたる)心地よさ(ここちよさ)に、思わず(おもわず)いきく。キンキンにえたコーラのかんし、とびらめようとした、そのときだった。


とびら隙間すきまから、ほんの一瞬いっしゅん、何かが(なにかが)うっすらと見えた(みえた)。くろかみ。そして、青白あおじろかお

……まさか。

冷蔵庫れいぞうこおくに、おんな生首なまくびかれている、そんな馬鹿ばかげた光景こうけい脳裏のうりをよぎる。


「え……?」


ぼくはもう一度いちどとびらをかけた。けれど、けられない。

本当ほんとうなか生首なまくびがあったらどうしよう。さっきのは、つかれているぼく幻覚げんかくかもしれない。そう自分じぶんに言いきかせるかせる。だが、一度いちどかんじてしまった恐怖きょうふは、あたまの中から離れて(はなれて)くれない。


けっして、ゆっくりと冷蔵庫れいぞうことびらけた。


なかは、いつもどおりのぼく冷蔵庫れいぞうこだった。みかけのペットボトル、賞味期限切しょうみきげんぎれの牛乳ぎゅうにゅうすこししなびた野菜やさいなにも、おかしなものははいっていない。


「よかったぁ……」


安堵あんどから、心底しんそこほっとしたこえが漏れた(もれた)。その瞬間しゅんかんよこ耳元みみもとから、囁く(ささやく)ようなこえが聞こえた(きこえた)。


「よかったね」


そのこえは、ぼくいた安堵あんどこえと、あまりにもていた。

いや、ちがう。ぼくこえではない。

それは、ほんのすこしだけ、つめたく、そしてうれしそうに聞こえた。


あまりにもこわすぎて、ぼくかえることができなかった。

ただ、ふるえるで、なぜかもう一度いちど冷蔵庫れいぞうことびらけてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る