第三話:シャワーを浴びるとき

あつよるだった。あせでべたつくからだあらながそうと、ぼくはシャワーをはじめた。蛇口じゃぐちをひねると、あついきおいよくながし、浴室よくしつ充満じゅうまんしていく。しろ湯気ゆげつつまれ、ようやくすこしだけれた。


そのとき、ふと、いや予感よかんがよぎった。


シャワーをびているとき、だれもが一度いちどかんじるだろう、あの感覚かんかく

「もし、このよこだれかがっていたらどうしよう?」

そうおもった瞬間しゅんかん左側ひだりがわに、たしかにひと気配けはいかんじた。


背筋せすじこおりつき、心臓しんぞうが大き(おおき)くねる。だが、ぼくはその恐怖きょうふすように、何度なんど自分じぶんい聞かせた。


大丈夫だいじょうぶだ……なにもいない……大丈夫だいじょうぶ……」


やがて、ぼく意図的いとてきに、たのしいことをかんがはじめた。

きなバンドの新曲しんきょくのこと、週末しゅうまつ友人ゆうじん予定よていのキャンプのこと。

あたまなかに、たのしい映像えいぞう次々つぎつぎかべる。


「ふふっ……」


自然しぜんと、口元くちもとゆるんだ。

大丈夫だいじょうぶ。きっとのせいだ。ぼくはにこにこしながら、かたじていたけた。


まえかがみが、湯気ゆげくもっている。

ゆっくりと、くもりをいた。

すると、ぼくよこを、さっとくろかげとおぎていくのがえた。


くろかげは、浴室よくしつかべこうにえていった。

うしろをくことは、どうしてもできなかった。

ぼくはそのまま、ふるえるとびらをかけ、一目散いちもくさん浴室よくしつからした。

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