Goner Kids
一途貫
ピッチ編 おれの先生
おれ、ピッチ。おれは何でかグランドでねてた。せなかがすごくいたい。おれ、ころんだのかな? なんだか頭もボーッとする。もう夜だ。ウチにかえらないと、めいうぇざぁ先生がしんぱいする。
おれ、頭わるい。でも、めいうぇざぁ先生は、キミはやきゅうがすごくうまいぞってほめてくれた。めいうぇざぁ先生は、親がいないおれを育ててくれた。よく、キャッチボールの相手になってくれたんだ。おれ、バカだけど、やきゅうだけはだれにも負けない。
そうだ、おれ、やきゅうの練しゅうしてたんだ。このグランド、いつものおれの練しゅう場。どうしてねてたんだろ? みんなかえっちゃったみたいだ。おれもかえらなきゃ。
おれたちの家は、町のはじっこにある。"羊の家"っていうかんばんがあるからすぐ分かるんだ。夜の道はこわいけど、勇気を出さないと。先生はいつもおれに言ってた。「こまった時は1を数えなさい。1はキミに勇気をくれる幸運の数字だよ」って。1はおれのせなかの数字。1番の1だ。おれだけの数字。ほかのだれにもわたさねぇ。
夜の道にはだれもいなかった。いやにのびた、おれのカゲがついてくるだけだ。"羊の家"の前までついたとき、知らないおじさんがこわい顔で立っていた。黒いゴミぶくろを持って、"羊の家"をにらんでいる。ゴミぶくろはパンパンにつまっていて、黒い水がもれていた。おれ、おじさんを見ていると、おなかの中がグルグルかき回されて気持ちが悪くなってくる。おじさんはゴミぶくろから何かをとりだした。黒い水をボタボタ垂らしながら、おじさんはそれを広げる。おじさんが広げたそれがライトに照らされた時、せなかがひどく痛んだ。おれの1だ。アイツが持っているのはおれのせなかの1だ。頭の中のモヤモヤがどんどんなくなってくる。アイツは悪いヤツだ。アイツがおれのせなかから1をうばった。取り返さないと。アイツをやっつけて、おれの数字を取り戻さないと。おれはもってるバットで、悪いヤツをなぐった。わられたスイカみたいな音を立てて、ソイツは地面にたおれた。口のすきまから、うめき声がもれてくる。
「テ......テメェ、何しやがる......」
悪いヤツはおれを見ると、しんじられないと言いたそうな顔をした。冷や汗をかいて、くちびるをふるえさせる。
「な......なんでテメェが......!? テメェは俺が......」
頭からスイカのしるを出して、ソイツは後ずさった。おれはソイツの頭をもう一度なぐる。スイカの固い皮がわれた。ソイツは助けをもとめるように、ゴミぶくろをつかんだ。にげようとする手が、ゴミぶくろをひきさく。ちぎれたゴミぶくろから出てきたのは、おれだった。頭がわれて、目玉がとび出てるおれ。せなかがなくなってるおれ。
「た......助けてくれ! こいつ、化けて出てきやがったぁ!」
悪いヤツはまだ生きてる。おれがやっつけないと、"羊の家"のみんながあぶない。おれはソイツの声が聞こえなくなるまでバットをふりおろした。
なぐるたびにスイカのしるがとんでくる。スイカのなかみもとびちった。悪いヤツの声はもうない。かわりにぐちゃぐちゃした音が聞こえてくる。悪いヤツをやっつけても、おなかの中はむかむかした。おれはスイカのざんがいをかき分けて、おれの数字をさがす。あった、おれの数字。ベトベトした数字を、おれはせなかにはりつける。うん、ぴったりだ。おれのせなかだもの。めいうぇざぁ先生がくれた大切な数字。
"羊の家"の庭がスイカでよごれてる。めいうぇざぁ先生、おこるだろな。おれ、ゴミぶくろにスイカをつめて、しげみの中にほうりこんだ。かえらないと。めいうぇざぁ先生きっと心ぱいしてる。みんなもおれをさがしてるだろな。早く中に入って、みんなと遊ぼ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます