第27話




第27話「足音の主」



ギィ……と重い金属音が響き、屋上の非常扉がゆっくり開いた。

足音は確かに近づいてくる。


「……誰だ」

遥はすみれを背中に庇いながら、扉の方を睨んだ。


姿を現したのは、黒いパーカーにキャップを深くかぶった人物だった。

顔は影になっていてよく見えない。

ただ、その肩幅と体格からして、明らかに男。


「……また会ったな」

低く押し殺した声。


すみれの体が小さく震える。

「……あの声……」


遥はわずかに顔を横に向け、すみれの表情を確認した。

唇が固く結ばれている。間違いない――こいつだ。


「何の用だ」

遥の声は鋭く、冷たかった。


男はゆっくりと近づきながら、ポケットからスマホを取り出した。

画面がこちらに向けられ、そこには――数枚の写真。

どれも、すみれが気づかないうちに撮られたものだった。

中には、高校時代の制服姿のものまで。


「消せ」

遥は一歩踏み出した。


男は口元だけを歪めて笑った。

「これは記録だ。俺が守ってきた証拠だ」


「守る? 盗撮がか?」

遥の声が一段低くなった。


男は答えず、視線をすみれに移す。

「君は俺に感謝すべきだ。あの事故から救ったのは俺だ」


事故――?

その言葉に、遥もすみれも一瞬固まった。


「……何のこと?」

すみれの声は震えていた。


男はゆっくりと笑みを深めた。

「やっぱり、覚えてないんだな」


次の瞬間、非常扉の奥から別の足音が響いた。

屋上に、もう一人の影が現れる――。



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