第26話




第26話「守るって決めたから」



「……元マネージャー?」

遥の声は、思った以上に低く響いた。


すみれは視線を外し、屋上のフェンス越しに夜景を見つめたまま続けた。

「高校のとき、まだ事務所に入ったばかりで……右も左もわからなくて。唯一頼れる大人が、その人だった」


「なのに、なんで――」

「ある日から、変わったの。急に、仕事以外でも連絡してきたり、会うたびに……写真を撮るようになった」


すみれの声は震えていた。

その震えが寒さからではないことを、遥はすぐにわかった。


「やめてほしいって言った?」

「言ったよ。でも、『これは君を守るためだ』って……」

「守る? どういう意味だよ」

「わからない。ただ、撮られてるときの目が……怖かった」


遥は黙り込んだ。

怒りとも焦りともつかない感情が胸を満たしていく。


「もう二度と、あんなのに近づけない」

気づけば、そう口にしていた。


すみれが振り返る。

「……そんなの、簡単に言わないで」


「簡単になんか言ってない」

遥は一歩近づき、すみれとの距離を縮めた。

「俺は……あのときからずっと、お前を守りたいって思ってた」


すみれの瞳が揺れた。

屋上のライトに照らされて、その瞳の奥まで見えるほど近い距離。


「だから、もう黙って抱え込むな」

「……うん」


その瞬間、屋上の非常扉の向こうから――また、足音がした。



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