第7話

第7話「芸能人、ライバル登場!」



文化祭の翌週――。クラスの優秀クラス賞受賞が正式に発表され、学校中がまだ余韻に浸っていた。


「優勝おめでとう、縁日屋台チーム!」

「すーちゃん、はる、本当にすごかったな!」


教室は祝福ムード一色。すーちゃんも一ノ瀬も、笑顔が止まらない。


「みんなのおかげだよ、本当にありがとう!」

「俺はすーちゃんがいたから頑張れたんだ」


二人はクラスメイトとハイタッチを交わしながら、校舎の廊下を歩いていた。


──そのとき。


「失礼します」


教室のドアが静かに開き、見慣れない制服姿の少女が入ってきた。長い黒髪をゆるくまとめ、上品な雰囲気を漂わせる。


「はじめまして。私、隣の3年B組から来ました、白石瑞希と申します」


皆が一瞬凍りつき、続いてどよめきが起こる。


「え、誰?」

「なんか美人だけど……」

「誰かの転校生?」


すーちゃんがすっと前に出て、にこりと微笑んだ。


「はじめまして、白石さん。私がこのクラスの──」


しかし一ノ瀬が小声で耳打ちする。


「すーちゃん、このコ、ただの隣クラスの子じゃないぞ」


すーちゃんは驚いて白石を見つめる。


「え、何?」


白石は落ち着いた声で答えた。


「実は、すみれ先輩の……昔からの“ライバル”です」


──ざわり。


「ライバル?」


白石は手にした書類バインダーを軽く揺らした。


「先輩が芸能界でデビューした頃から、ずっと同じオーディションを受け続けてきました。私も同じプロダクションの候補生で。結果的に先輩がメインヒロインを勝ち取る一方、私は脇役を回され続けた。だからこそ、今度の文化祭で先輩が優勝したと聞いて、直接会ってお礼と、そして──」


「そして?」


一ノ瀬の問いに、白石は静かに言った。


「先輩に、本気で挑戦させていただきたいのです。舞台部の演劇祭での主役争い……文化祭のステージで勝負を、だれよりも先輩としたいと」


教室中が耳を疑う。文化祭では縁日屋台で大活躍したすーちゃんだが、舞台部の発表を控えているわけではない。


「……舞台部、って?」


隣席の生徒が尋ねると、白石はほほ笑んだ。


「私、実はこの学校の舞台部に所属しています。今度、学内演劇祭で新作を上演する予定で、その主演に選ばれるかどうか、先輩とオーディション形式で競いたいんです」


すーちゃんは困惑しながらも、胸の高鳴りを感じていた。


(学園のステージで、演技対決……? なんか胸が、ドキドキする)


白石はさらに続ける。


「それだけではありません。先輩が“普通の学生生活”を楽しんでいる間に、私はひたむきに表現者としての腕を磨いてきました。ここで先輩に勝てば、“すみれ”ではなく“白石瑞希”として認めてもらえると思いまして」


すーちゃんの瞳に、情熱の炎が灯る。


「分かったわ。勝負、受けて立つ!」


クラスメイトたちも興奮し、拍手が起こる。


「わぁ、演劇祭も楽しみ!」

「絶対観に行きます!」


校内の雰囲気が、一気に「文化祭第2弾」への期待で満ちた。



放課後――。一ノ瀬とすーちゃんは空き教室で顔を合わせた。


「すーちゃん、大丈夫?」


「うん。怖いけど、燃えてきた」


「……俺も、力になりたいけど、演技ってどうサポートすればいい?」


すーちゃんは笑って杖代わりにノートを開いた。


「一ノ瀬は“私の演出”になってほしい。普段と違う“すみれ”を引き出してほしいんだ」


「演出?」


「うん。台本読んで意見くれたり、リハーサルで細かい感情の動きを教えてほしい。あと……」


すーちゃんは恥ずかしそうに視線をそらした。


「……最後のシーン、キスの演技あるかも、だから……その……ドキドキしてほしい」


「なっ……!」


それを聞いて一ノ瀬は真剣な表情になる。


「任せとけ。俺、お前のサポート役として全力出すから」


すーちゃんは安心したように微笑んだ。



数日後――。練習場と化した講堂に、舞台部員たちが集まっていた。すーちゃんと白石も、舞台の上で稽古中だ。


「はい、その表情、もっと絶望感を!」


白石が演出補を務める部長に叫ばれる。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る