第19話 屋敷炎上
「真白ーーー!!」
真っ赤な光から、真っ黒な闇に包まれた真白。
光が一切ない、暗黒。
暗黒球に、真白が飲み込まれたように感じた。
しかし、そこからボコッと手が飛び出す。
「ワタシハ……誰カラも愛されるベキ・存在なのに……邪魔……スルナ」
暗闇が飛び散って、真っ赤な鱗に包まれた真白が現れた。
背中からは羽根が生えて竜人のようだ。
その姿は、もう人間ではない事が見てわかる。
「……真白!?」
「萌黄さん! 下がって! 呪いの指輪と同化して変化しまった……あぁなってはもう人間には戻れない……!」
「……人間に戻れない……?」
「そうです。彼女はもう妖魔化してしまった……」
「真白が妖魔に……」
あまりの事に、萌黄の脳内が追いつかない。
ただ、目の前の真白は明らかに化け物(妖魔)だった。
「モエギ! 私の海斗ヲ、ウバッタ……死ぬベキ・存在」
腕が龍のような鱗に覆われて、手は鋭い鈎爪がギラリと光る。
真白は伸びた首をギロ……と動かして炎を吐いた。
「萌黄さん! 俺の後ろに!」
海斗が萌黄を背に庇い、
炎は弾かれたが、真白は確実に萌黄を狙っている!
「萌黄……! な、なんだあの化け物は!!!」
そこに現れたのは陸一郎だ。
妖魔化した真白を見ても、真白だと気付かずに叫んだ。
「兄さん! 真白さんが妖魔化した! すぐに対妖魔軍を呼んでください……!」
陸一郎と共に追いかけてきたメイド長が、悲鳴をあげて助けを呼びに逃げていく。
「なんだと!? 真白が……海斗お前のせいか!?」
「海斗さんは何も悪くありませんわ!」
「いいや、萌黄が私の元から逃げ出したのも、海斗! お前のせいだ!!」
陸一郎の顔も、何やら醜く歪み、牙が生えて変化しているように見える。
明らかに様子がおかしい。
「陸イチロウ……お前ハ……私の眷属にナりなさい……私の下僕ヨ……」
真白が陸一郎へ向けて、呪詛を放っていた。
「兄さん!? まさか……そこまでの力をもっているのか」
「海斗さん、一体何が起きているんですか」
「真白さんが、兄さんまで妖魔にさせようとしている。穢れた契を結んだ仲だから……共鳴しているんだ」
真白が鏡を擦ったような叫びをあげると、屋敷の窓が一斉に割れた。
あちらこちらから悲鳴が聞こえる。
「ギエェエエエエエ……! 萌黄……お前が……カイト……コロス……!」
醜い心が似ている二人が共鳴して、陸一郎までが異形の姿になっていく。
更に真白の吐いた炎が、屋敷に燃え移る。
「このままでは……」
真白と陸一郎が、二人を殺そうとしている。
海斗が刀を抜いた。
「海斗ぉ! シネ!」
醜く歪んだ顔の陸一郎が、海斗へ襲いかかった。
「やめてください!」
萌黄が叫ぶと、身につけていた魔道具が発動し陸一郎を弾き飛ばす。
「ケッカイが、ただの魔道具カラ発動された!?」
陸一郎が驚く。
「萌黄さん、俺の後ろへ! さすが、最高級の魔道具です! それを持ったまま、お逃げください!」
萌黄の作った魔道具は、祓魔騎士でなくとも悪しき者を弾く力がある。
萌黄が一人で逃げる間くらいは守ってくれるだろうと考え、海斗は逃げるように言った。
「いいえ! 私が逃げては、皆に被害が……! それに海斗さんから離れるなんてできません!」
「萌黄さん……必ず俺が貴女を守ります」
海斗は萌黄を背中に隠す。
「萌黄ィイイイ! 海斗ォオオオオオオ!」
「兄さんも、いい加減にみっともない執着はやめろ! 正気に戻ってください!」
海斗が陸一郎へ説得をするが、やはりもう陸一郎は妖魔になりかけている。
「アガァアアアア萌黄ィイイイイ!!」
生ける屍のように、ユラユラと長い爪で萌黄に手を伸ばす陸一郎。
その時、何故か真白が陸一郎へ向けて炎を吐く。
陸一郎が真白の炎を受けて、全身が燃え上がる。
「ギャアア! 真白! 何故ダ! 何故ワタシを」
「モエギモエギとうるさいから……もうイラナイ……邪魔だ!!」
「兄さん! 水神乱舞! ……聖なる流れよ穢れを洗い流せ、清い命を呼び戻さん!」
海斗が詠唱すると、刀から聖水が発生する。
萌黄の魔道具でその力は何倍にも増幅され、凄まじい威力だった。
陸一郎を焼く炎は消えたが、その場に倒れ込む。
今まで人を道具のように扱ってきた男が、同じように利用された末路だ。
「海斗ォ! 言うことの聞かない馬鹿メ! もうお前もコロス!」
更に激しい炎の攻撃を繰り返す真白。
海斗は萌黄を守りながらなので、防戦一方になってしまう。
「海斗ぉ! アイシテル! 喰ってやる!!」
「もう、めちゃくちゃだ……! 正気を失っている!」
眷属にした陸一郎も倒し、もう海斗すら憎悪の対象になっている。
真白は、海斗と萌黄を追いかけながらも血を吐き発狂し始めた。
「真白の様子が……」
「あまりに強い力が暴走して、人間の肉体では受け止めきれないのです。いずれは……。しかしその間にも被害がどれだけのものになるか」
二人の後ろには影工房。
そこにも火が迫る勢いだった。
屋敷も盛大に燃え始めてしまった。
「火が……!」
「このままでは近隣どころか、帝都にも及びかねません」
「そんな……」
「萌黄さん……辛い判断をしなければなりません」
そう。海斗が防戦一方だったのは、まだ躊躇していたからでもある。
「……真白を討つと?」
「はい……」
祓魔騎士として海斗は、役目を果たさなければいけないのだ。
彼が、気遣っていたのは萌黄の心だ。
邪悪な妹……でも死を望んでいたわけではない。
でも、このままでは真白は妖魔として殺戮を続ける。
「……海斗さん……お願いいたします……! 真白を解放させてあげてください!」
涙を流して、萌黄は海斗に懇願した。
「承知しました!」
「魔道具の加護を貴方に……!」
海斗の刀の鍔が輝く。
萌黄の魔道具の力が海斗を包んだ。
「邪悪滅せよ……!」
萌黄の魔道具によって、力を増した海斗の刀が舞う――!!
そして、刀を振るたびに感じるのは……。
「お祖父ちゃんの……魔道具の力……!」
祖父の作った魔道具の力を感じる!!
確かに、海斗の左腕には祖父の魔道具が生きていたのだ。
「カイトォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
「御免!!」
何度かの攻防の末、海斗の刀が真白の首を斬り落とした。
飛んだ首が、萌黄を睨んだが……言葉も無く、一気に飛散した真白の首と身体。
やっと消防団や対妖魔軍が、屋敷に到着した音が聞こえる。
真っ黒な夜に、砕けた真白の灰が降り注ぐ。
「海斗さん……っ」
「萌黄さん」
萌黄が海斗に駆け寄ると、納刀した海斗が萌黄を抱き寄せた。
二人で降り注ぐ白い灰を見つめる。
「真白……どうか、どうか……安らかに……」
萌黄の祈りが、夜の闇に静かに吸い込まれていった。
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