第18話 城内の愉快な仲間たち
ふぁあああ。伸びをして一点を見つめる。
いつの間に寝ていたんだ?
自力で寝床まで来たのか?
昨夜の記憶は非常に曖昧だ...。
人生初の"酒"というものをロスにたらふく飲まされた。
体が重くなった気がする。
窓を開けると、目が覚めるほどの冷たい空気が流れ込む。朝の雰囲気。
まだ眠いけど、レノアの講習は昼からだし街にでも出てみるか。
「晴れて今日から自由の身だー!!」
ささっと身支度を済ませる。
髪を隠す必要は無くなったから、この首巻は本来あるべきところに巻いておこう。
部屋から一歩出ると、扉の横に背を預けたシュガと目が合った。
「っわ!シュガ!なんで!?」
僕の情けない声がこだまする。
「おはようございます。自由の身になれてよかったですね。もちろん、あなたが寝ている間もセナと交代で見張りに付いております。」
実際には見えないが、冷ややかな視線を感じる。
「どこに向かうおつもりですか?」
「ちょっと街へ行こうかなと。」
「そうですか、セナは睡眠中ですので自分がお供いたします。」
「ありがとう。ちょうど、シュガと話したいと思ってたんだ。」
「そうですか...。」
「セナと同い歳なんだって?」
「そうですね。」
「じゃあ僕のがふたつ歳上だ。」
「そうですか。」
彼の返答は、あまりにも淡白だった。
気にするな!心を強く持て!自分自身に暗示をかける。
シュガが話を広げる気がないのなら、僕が話させるだけ。
僕は、気になっていたことを聞いてみる。
「いろいろあったけどさ、シュガは何故僕を受け入れてくれたの?」
彼がすんなり従ってくれるのが不思議だった。
レノアが国王に不満を持っていたことは昨夜知った。クリフ(さん)が、僕を受け入れてくれた理由も想像付く。
シュガの足がピタリと止まった。
「あの時、殺せなかったからですよ。」
緩く上がった口角が、包帯に隠されているあどけない笑顔を空想させる。
その表情に目を取られていたら、シュガが顔を背けた。
「それより、酒は程々にして下さい。
昨夜は寝室に運ぶのが大変でした。」
その言葉に僕は目を見開いた。
「ごめん!!てっきり自分で戻ったのかと...
実は昨日の記憶は断片的で...」
心の中で大きな溜息を吐く。
初日から、情けない姿を見せてしまった...。
「口を開けばユナさんの話ばかり。随分と大切に思っているんですね。」
「なんか僕の知らない僕の記憶を持ってるみたいで恥ずかしいな...。うん。ユナは、僕にとって1番大切なんだ。」
「そうですか。」
聞いてきた割に興味は無さそうだった。
それから、シュガの身の上話を聞きながら街を回った。
街の人々は歓迎とまではいかないけれど、想像よりもずっと温かく迎えてくれた。
帰り道。並んで歩く僕らの距離は、朝よりも縮まっていた。
「シュガはさ、戦闘民族なんだよね?やっぱり小さい頃からいろいろと教えられたの?」
シュガは、答えに悩んでいるようだった。
「あまりよく覚えていません。もうずっと昔の記憶なので。でも、物心ついた頃から毎日殺されないように必死でした。自分は見込みが無かったようですぐに見切られましたが。」
厳しい世界の中、必死に生きていたんだ...。
世界の当たりが強いのは僕だけだと思っていたけど、そうじゃない。
ユナだって...いや誰もが幸不幸に呑まれながら必死に生きているんだ。
「答えたく無かったらいいんだけど...その目はその時の怪我?」
「いえ。違います。気付いているかと思いますが、見えていますよ。この目を隠している理由は、誰にも見せたくない僕の宝物だからです。」
「宝物か...。僕もそう思ってみたいな。」
シュガに視線を移す途中、城の前に立つ人物が目に入った。
「どちらに行かれていたのですか!!」
甲高い声を発したのは、腕を組み仁王立ちするレノア。
え...と、この様子は怒っているのか?
「ちょっと街に...。」
ちらりとレノアを見上げる。
怒っている訳では無さそうだけど...
「何事も無かったのなら、良かったです。
今後は、一言声を掛けて下さいね。
本日は城内をご案内いたします。」
レノアはそう言ってくるりと踵を返す。
「レノア!これから、毎朝街に行こうと思う!」
「お好きにして下さい。」
レノアが小さく笑った気がした。
「シュガ、護衛ありがとう。嫌じゃなかったらさ、明日もお願いしていいかな?」
「ソルト王の仰せのままに。」
胸に手を当て頭を下げる彼の姿に、先程まで無かった壁を感じる。
セナとは真逆だ...少しずつ心を開いてくれるといいんだけど...。
「そろそろセナを叩き起こす時間なので、自分はここで失礼いたします。」
シュガから静かな怒気を感じる。
「あ...うん。」
叩き起こす...か。
そういえば、セナも結構飲んでたな...。
大広間を突き進むレノアの一歩後ろを続く。
「大広間の奥には、医務室兼療養所がございます。」
レノアが静かに扉を開く。
ぎゅうぎゅうに敷き詰められた寝床は、殆どが埋まっている
「先日の戦いで負傷した兵士たちです。」
その言葉を聞く前に分かっていた。
見覚えのある兵士もちらほらと見える。
「ソルト王には、こういった場所があると知っていて欲しかっただけですよ。...暗い顔をしてほしくて連れてきた訳ではございません。」
レノアが、心配そうに覗き込んできた。
「死者は1人も出ませんでした。それに、最も重症だったのは貴方です。」
僕は、言葉を返せなかった。
ただ足が、心より先に動く。
横になっていた兵士達が、顔を上げ僕を見る。数多の視線が肌を刺す。
僕は彼等の前で足を止めた。
そして静かに頭を下げた。
レノアには禁止されていたが、床が目の前に迫るほど深く頭を下げていた。
だってそうでもしないと彼等が報われない...。
身勝手な理由で傷付けられて、その相手が逆らうことの出来ない存在になってしまった。
そんなのは...
「王様のお加減はどうでしょうか??」
顔を上げると、逞しい体付きの中年兵士が目の前にいた。
予想外の問いかけに言葉が詰まる。
「えっ...と、僕はこの通り..全然動けます。」
「アンタ偉くなったもんやなぁ!!!王様に敬語使ってもらえるなんて!人生に二度もねえぞ?!」
1人の兵士が茶々を入れると、一斉に他の兵士も騒ぎ始めた。
僕の胸が波立つ。
レノアの言い付けを守らなかったせいで、余計な事をしてしまったかもしれない。
「ハッハッハ!これは嫁さんに報告しないとだ!」中年の兵士は大声をあげて笑った。
僕の脳は、状況を理解しようと試みる。
「国王様、貴重な経験させて頂きありがとうございます!」
中年兵士が僕に対して頭を下げた。
僕の脳が辿り着いた答えは、兵士達の"寛大さ"だった。
「王様は、随分と洒落た眼をしていらっしゃる。」
少し遠くから聞こえた年季の入った声。
声を辿ると、上体を起こしてこちらを見る熟年兵士がいた。
「神様や、ちょいと不公平やしないか?」
その兵士は、目尻に皺を寄せて僕の瞳を見つめている。
「そう言ってもらえたのは生まれて初めてです。」
「とっても素敵な眼だ。どうか、俺ら兵士に敬語なんておやめください。誰一人としてあなたを恨んでなんかいませんよ。」
熟年兵士の一声に、周りの兵士達が次々と立ち上がった。
「そうです!」「兵爺の言う通りですよ!」
「恨みなんてありません!」「爺言うなッ!!」「僕等の急所をわざと避けるようにしてましたよね!?なのに...「白髪の兄ちゃんだってそうだ!!」「その腕の傷は僕がやりました!すみません!」「顔の傷は...「俺なんか...
次々と押し寄せる声の荒波に、僕は飲まれて動けなかった。
立ちすくむ僕に、中年の兵士が笑いかけた。
「ということで、国王様が気に病む必要はございません。あの時殺せていれば...なんて思わせないでください。それだけが、私達の願いです。」
僕は深く息を吸い込んだ。
「誰一人として後悔なんてさせないよ。」
けたたましい歓声が僕の声に呼応する。
僕はしばらくの間、兵士達に囲まれて身動きが取れなかった。
解放された僕を、待ちくたびれた雰囲気のレノアが迎え入れた。
「貴方はとことん不思議な方ですね。先が思いやられるというか...ある意味、行く末が楽しみというか...「あのさ...。」
レノアの語尾に被せるように話を切り出した。
「...この国の人たちは赤い瞳の意味とか知らないの?」
レノアはキョトンとした顔で首を傾げた。
「意味ですか?何かあるのですか?」
「...僕がいた国では、赤い瞳は悪魔の証だって噂が流れていたんだ...。」
レノアは首を横に振った。
「この国は長らく鎖国状態ですから。巷の噂など存じ上げません。」
僕は話す事ができなかった。この瞳について、僕という存在について_____
その後は療養所の隣にある大浴場を案内され、2階へと上がった。
2階には、かなりの広さの調理場があった。
「料理長のファボと副料理のスーです。」
ファボと呼ばれた男性は、黄金色の髪を高い位置で束ねた青年だった。右眼には黒い眼帯を当てており、牙のような尖った歯と煌びやかな耳飾りが一際目を引く。
「料理長を任されてるファボだ!歳は26!敬語は使えない!宜しくなボーズ!」
ファボは、僕に真っ直ぐ手を伸ばした。
その掌は板のように硬く、山脈のようにゴツゴツとうねっていた。
「アタシ副料理長のスー!にじゅいち!」
ファボと同じ黄金色の髪を、頭の上でひとつに纏めた少女がニカッと笑う。
腰程の長髪に睫毛も長い。目を引く大きな瞳。
「おれの妹だよ!」
ファボはそう言って、スーの頭にポンっと手を乗せた。
「兄チャンの作ったご飯残したら、抹殺♡」
ニコリと口角を上げるスーの瞳の奥が笑っていない。
僕はガクガクと小刻みに頷いた。
「ソルト王。もうひとりご紹介したい人物がおります。」
レノアは、僕に寝室で待っているように告げ、どこかに消えてしまった。
暫く待ち___叩かれた扉を開けたのはレノアと...
?!?!
眉より少し上で揃えた前髪。耳の下で丸まっている2つのお団子。
何より露出の多い服装が目を引く少女。
「こちら、侍女のアルルです。」
レノアは、普段通りの口調だった。
「いやいやいや!なんでそんな格好なの!」
僕は、声を荒げざるを得なかった。
アルルと呼ばれた少女は、つぶらな瞳で僕を見ている。
「コホンッ。お好みに合わなかったでしょうか?こちらは先王の趣味ですので...。
今後は、ソルト王の好みに合わせますのでご安心下さい。」
「ご主人様の仰せのままにっ❤︎」
淡々としたレノアと少女の甘い声が入り混じる。なんだこの状況は...
「身の回りの世話は、全てアルルにお任せ下さい。掃除、洗濯、伝言、添い寝まで...。」
?!
流石に聞き間違えだよな...
「では、私は失礼いたします。」
レノアは颯爽と部屋を出て行った。
取り残された僕と少女。
気まずい空気が流れる。
アルルという名の少女は、その身体のほとんどを露わにしている。
これじゃ、会話もままならない。
「とりあえずさ、服を着替えてきてよ...。
露出が少なければなんでもいいから...。」
「かしこまりましたっご主人様❤︎」
意気揚々と出て行ったアルルは直ぐに戻って来た。
沢山の服を抱えて。
それからアルルの"服選び"という名の、自分との戦いが始まった。
僕の「なんでもいい」という言葉は聞こえなかったみたいだ。
「こっちの方が似合ってるよ。」
アルルはスーと異なり、目立つような顔付きではない。
焦茶色の髪と瞳。柔らかそうな頬。桜色の薄い唇。調和の取れた顔付きを邪魔しない格好。
何より、露出が控えめなこの格好!
緩い長めの靴下に、膝丈のスカート。
胸元はもちろん、二の腕までバッチリ隠れている。
「ご主人様が言うならこれにしますっ❤︎」
アルルの動きに合わせてフリルやリボンが弾んだ。
なんだか賑やかな日々になりそうな予感がする。
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