第19話 ソルトの慌ただしい日々

僕の日課はこうだ。

5:30-8:00シュガを連れて街へ出向く。帰り際にフィールド家へ寄る。

8:00-8:30ファボが作ってくれる食事を摂り、スーに感想(褒めまくる)を伝えに行く。

8:30-12:30ロスと共に近郊の海域の流れを調べる。

12:30-20:30レノアから【一般教養•王としての立ち振る舞い講習】を受ける。

20:30-21:00ファボが作ってくれる食事を摂り、スーに感想(褒めまくる)を伝えに行く。

21:00-23:00訓練所で兵士たちと手合わせを行う。

23:00-23:30アルルが沸かしてくれた湯船に浸かる。アルルが入ってこようとするので全力で阻止する。

23:30-2:30他国に関する記述書や貿易に関する書籍、この国の資源や職務資料に目を通す。

2:30-爆睡。



「アルル。みんなを呼んで来てくれないか?」

「かしこまりましたご主人様っ❤︎」

アルルのご主人様呼びにも慣れてきた頃。

レノア/クリフ/ロス/シュガ/セナに集まってもらった。

新ステラテラ国が第一歩を踏み出す為に。

「この国を開国する。」

僕の言葉にレノア、クリフ、セナが目を丸くした。

「財源を国内で集めるには限界がある。

その壁が今、人々の生活を圧迫している。

国外で物資を金貨に換え、国内に流通させるんだ。

貿易が始まれば年貢制を廃止し、国は国民から物資を買い、それを他国に売買する。その貿易で得た金を財源にする。そうして、国民同士も金貨で物を売り買い出来るようにする。

他国は、貿易だけでなく国内でも売買が行われている。ロス、そうなんだろう?」

「ああ。当たり前のようにな。

俺の居たアルマン大国では、鉄鉱石採掘の為に領土を拡大していた。採れた鋼で武器を鍛造し市場に流す。アルマン大国の軍事力は格段と上がり、無敗の国となった。"アルマン大国製"の武器は拍がつき、今や簡単に手を出せるような値ではない。

俺の愛剣は、その中でも白鋼という極希少な鋼で鍛造された剣だ。俺の異名も重なり"白死の剣(ハクシのツルギ)と勝手に呼ばれている。今市場に出せば、国ひとつ買えるかもしれないな。」

「その剣が...国ひとつ...」

場の空気が凍った。

「その剣に斬られた僕にも拍が付くといいんだけど。」

場の空気がより冷たくなった気がする。

和ませたくて言った冗談なんだけどな...。

「地底石(ステラ)が異質なら尚更、国内で占領するよりもそれで稼げると思わないか?」

レノアとクリフは口をあんぐりと開けていた。

「それは...神が授けた石ですよ!?」

クリフが蹌踉めく。

「私(わたくし)は、良いと思いますが...果たして稼げるのでしょうか?」

レノアは案外現金みたいだ。

「レノア様まで...!はあ...私は目眩がしてきたので席を外させて頂きます...」

よろよろと出て行くクリフの姿に心が痛むが、僕は神よりも民を取る。

「ソルトが持っていた不思議な石のことか。

あの石なら、高値で取引される可能性はある。

特に、大国は金を惜しまないだろう。」

ロスが細い笑みを浮かべ顎を摩った。

「大国だと...この国に最も近いのは...」

僕は詰め込んだ知識を引き摺り出す。

「セントリア大国か。」

「ああ。あの国王なら興味を持つだろうな。」

ロスは本当にいろいろな事を知っているんだな...。戦闘以外で彼がこんなに頼もしいなんて想像もつかなかった。

「セントリア大国には反対です。」

始めて声を発したシュガ。

「どのみち開国するのであれば、セントリア大国との交易は必要不可欠です。」

シュガの反対を一刀両断するレノア。

彼女曰く、近郊で絶大な影響力を持つセントリア大国とは良好な関係を保つべきだそうだ。

「なら決まりだね。先ずはセントリア大国に出向く。そして、交易まで行えたら上々だ。

それと、迅速に不死者を解放してくれ。彼等が生きる為の職務も用意しよう。」

「採掘はどうするのですか?」

「それなら、兵士にやらせろ。この国の兵士は体が訛りすぎている。少しはいい運動になるだろう。」

「僕もロスに賛成だ。」


ステラテラの開国が決定し、国民にも公表された。

ロスは残念そうにしていた。

理由は単純だ。

彼が描いた地図の希少性が下がってしまうからだろう。

それでも、ロスは変わらず兵士達の訓練に付き合ってくれていた。

鬼教官と呼ばれているそうだ。

死神から格が上がったのか下がったのか...ロスは悩んでいた。

そんな時、やっと見つけたのだ。

僕が育った国を、ロスの弟が居るであろう国を。

それは"サルサ国"という、ステラテラの2倍程の面積を持つ発展途上国だ。

レノアにロスとの約束の話をすると、案外さらっと賛成してくれた。

「約束をしたのなら行って下さい。

その代わり、必ず帰って来て下さいね。

短期間で王が代わるのは、困りますから。

ただ、ひとつ...いやふたつ...みっつ...。」

レノアから、請け負った業務に目をやる。

膨大な資料の山。

開国までの準備を出発までのひと月で形にし、僕の帰国に合わせて交易を行えるようにと。

僕が戻ってくる時に、ロスは隣にいるのだろうか?

淋しさを誤魔化すように、国務に向き合った。


・貿易船はステラ5世が渡航した船を造った職人の息子さん率いる漁師達に依頼をした。

・セントリア大国への交易品は、少量のステラと雪の影響で濃く育った農作物、この国の特有種である巨大な鳥、ファームの卵に決まった。

・職務分布改定、これが1番厄介だった。

ステラテラの人口は、8737人。

内【兵士:811名】【役人:65名】

と10人に1人が国からの支給で生活している。

今後、ステラで得た収益で兵士の生活は賄えるとして...

残りの分布は随分と偏っていた。

最低限の自給自足を満たせるように、職務の変更や調整が必要だった。人々の要望を兼ね合いながら進めようとすればあっという間に日が暮れる。

その調整だけで数週間にも及んだ。

今後の貿易品となる農作物の生産、ファームを含めた牧畜に力を入れる必要があった為、元不死者の人達の新しい職はすぐに決定した。

これからは、なんの違いも持たないひとりの国民だ。


出国まであと7日_____

国務とは別で、サルサ国とセントリア大国ついてより詳しく調べる必要があった。

シュガが反対したのがどうも引っ掛かる。

それともうひとつの心配事はユナだ。

出国前に一目でも見れたら安心出来るんだけど...。



いつものようにシュガと街へ出向く。

今では、街の人たちが気さくに話しかけてくれるようになった。

家族の話や、野菜の話、大漁だった話や、最近の悩み事や武勇伝まで...幅広い話を聞かせてくれる。

そうして、フィールド家に立ち寄る。

声を掛けるが、反応は無い。

ユナが出て来てくれる事は一度も無かった。

当たり前のように開けていた戸を開く事は出来ずに、ただ待つことしか出来ない。

こんなに街を歩いていても、ユナを見かけた事はない。

セナは何度かユナに会って話をしたみたいだけど、僕には「ぼちぼちすね...」としか言ってくれない。

シュガに、セントリア大国との交易に反対をした理由を聞いてみたら「明確な理由はないです。」と言われた。

明確な理由無しに彼が口を出すとは思えないしシュガはシュガで、僕に話せない理由でもあるのか?

背中を預けたふたりに、隠し事をされているような気がして歯痒さが募る。


忙しない日々はあっという間に過ぎていく。

サルサ国への出国を控えた前夜。

僕とロスは杯を交わした。

「サルサ国で何が起ころうと、第一に己の目的を果たそう。」

「僕は必ずこの国に帰る。」

「俺は弟を取り戻す。」

「その為に剣を交えることがあったとしても、お前は俺の戦友だ。それは変わることなどない。」

あの日のロスの言葉を思い出す。

"いつか、命を賭して剣を交える。そんな日がきたら...俺も全てを出し切ろう"

そうならずに、3人でこの国に帰って来たい。






第一章/第二章お読みいただき、ありがとうございます。ストックを追い越してしまったので

【第三章:サルサ国編】は執筆ペースが落ちると思いますが、変わらず読んで頂けたら幸いです。

応募に際して始めた作品ですが、完結まで突き進む予定ですので是非気長に読んでください。

003より

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