第6話 デッキブラシの女性
隠れた港にたち、遠くのマリンスポーツの一群を眺めていると、近くにデッキブラシを持った人が通りかかった。
白いTシャツにハーフパンツ。日に焼けたショートヘアの女性だった。
「こんにちは」
私が挨拶をすると、あちらもまぶしそうな顔で返事を返してくれた。
「ご宿泊、ですか?」
「いえ、バイトでここに来たんですけど、時間前に散歩しています」
「ああ、そうですか。どのくらい?」
「一か月の予定です」
「楽しんでってくださいね」
そう言って女性は、水の入った青いバケツとデッキブラシをプラプラさせて、クルーズ船の陰に消えていった。
港を離れ、両脇に生えるシュロの並木を見ながら歩いてゆくと、いつの間にか道が石畳になっていた。
白い建物の一角、ここが集合場所だろう。数名の人だかりがすでにあった。
こんなに人数がいたのかな。そういえば、私が乗った港からではなく、はるか向こうの港から、別便が沢山到着しているのだ。多分その便で降りる人たちを待ってから、手続きをまとめて行う予定だったんだろう。
スーツを着た、細くて頭の小さな男性が、書類を渡して色んな説明をしてくれた。
これから寮へ案内するのだという。
私は、少し道の先の港で見た景色と、出会った女性のことを話した。
「ああ、今日やっているのは、シーカヤックですね。
休日に予約して、楽しむこともできるから、一度体験してみるのもいいでしょう」
そして、港のことも。
「マリン部のところに寄ったんですか?
その人は、船長の野坂さんですね。 運航のない日に、中をみせてもらえますよ」
ああ、あの日に焼けた女性は、クルーズ船の操縦士だったんだ。
自分の船を、自分で掃除していたんだな。
雲一つない青空を眺めながら、彼女がブラシで船を磨いている様子を想像した。
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