第8話  売れない声優は洋食と出会う

但馬環たじまたまき

城内の書庫を訪れた環は、自身を取り巻くあまりの膨大な蔵書の数に眩暈を覚える。前後左右、そして仰ぎ見る天さえも書物の数々に占められ、彼は圧倒されていた。


彼が知っているような学校の図書室など比べるのもおこがましく、公営の市民図書館ですら霞ませる。まさに一国にとっての緊要地、知の殿堂であった。これは即ち、それだけこの青藍では知が貴ばれ、優秀な官が多いことを示しているのだった。


環は目的の本を探し右往左往するも、早々に参ってしまう。

現代日本のように綴じられた本に背表紙などなく、表紙を見てみないことには何の本かも判然としないのだった。


文字習熟のために教科書代わりの本を求めた彼であったが、そもそもタイトル自体が崩し字で、すんなりと読めるとも到底思えない。

これだけ広い書庫だから司書のような人物がいるだろう、と思い直して歩き回るも、一向に誰かと出会う気配もない。


流石に諦めて出直すことを考え始めたところで、環は小さな影を見つける。

薄暗くも静謐な空間、採光窓から差す一条の光の中に佇む少女——書架の間で顎に手を当てて瞑目する舛花ますはなであった。ややあって目を開けた舛花は環の視線に睨み返してくる。

「……何か用?」


「ゴメン、何をしてたのかなって」

「ふん、本の内容を思い返していたんだよ」

舛花は鼻をならしてぶっきらぼうに答えた。


「へぇ、どんな本?」

「ここら辺の書架の本全部」

「ひょっとしてこれ全部覚えているの?」


「そうだよ」

さも当然と応じる少女に環は目を丸くする。


舛花は巨大な書庫が収めるその全てを一読し内容を把握する、その記憶能力はまさしく天賦の才。しかし、環が真に感心したのは大量の書物一つ一つに真剣に向き合い続けた舛花の努力であった。

「うわぁ、すごい。こんなにたくさんの本を読み込めるなんて。俺じゃ絶対に真似できないよ」


「まあね、それくらいじゃないと白群様のもとで軍師なんてできないよ」

環の感嘆に、舛花は少し照れたように視線を逸らした。


「でも、だったら書庫に来る必要なんてないんじゃ」

「まあ、そうなんだけど。でもここに来て、以前読んだ書物について一つ一つ思い起こしていると良い案が思いついたりするんだよ。それより、あんたはどうしてここに居んの?」

舛花に質され、環は頭を掻いた。

「実は字の練習用の和歌集を探しているんだけど、どこにあるのかさっぱりで……」


「何、あんた文字の読み書きもできないわけ?」

「いや、実はそうなんだ。舛花、和歌集の場所わかる?」

少女は呆れたように息を吐いて歩き出した。

「はぁ。こっちよ、ついてきて」





和歌集の書架に連れられてきたまでは良いものの、彼にはいずれが目的に適うかなど見当がつかない。狐面越しにその困惑を察して、舛花は何冊かの本を引き抜いて環に押し付けた。


「初学者はまずそれらで学び始めたら良いよ。早く白群様のお役に立てるようにになって」

そっけなく言う舛花であるが、環は彼女の人柄を何となく理解してきていた。口が悪いため物言いがぶっきらぼうであるが、実は面倒見がよいのである。


「ありがとう、舛花。お蔭で助かったよ!」

「あっそう。せいぜい励むと良いよ、ふんっ」

笑顔で礼を述べる環から、舛花は鼻をならして顔を背けてしまうのであった。


「そう言えば、舛花がここで本の記憶を思い出してるってことは、何か困りごとがあるってことだよね?」

「はあ? それをあんたに言って何になんの」

軍師の少女の予想通りのつんけんとした態度に環は目を眇める。


「まあまあ、そう言わずに。三人寄れば文殊の知恵とも言うし。知恵を出し合えば何か思いつくかもしれないよ」

「何だよ、にやにやして気持ち悪い。まあいいよ、知恵を出し合う方が良いというのは事実だしね。青藍は今有能な官吏が足らない状態。どうすれば有能な者を集めることが出来るか悩んでいるところ」


「今まではどうやってたの」

「普通の方法だよ。主に立札で告知したり、人伝手に噂を流したり、青藍の外へ視察にでるときなどはその村の能があるとされる人物と会ったり。今集っている者の多くは立札を読んだり、白群様の噂を耳にして仕官してきた者たちかな」


「なるほど……」

「ふん、早々新しい案なんて出てこないでしょ?」

「ええと。例えばだけど、養成所を作るってどうかな?」


「……養成所?」

馴染みのない言葉に、舛花は怪訝な表情を作る。


「そう、文官の養成所。俺の勝手な考えだけど、経験豊富な官吏が何人かで代わる代わる必要となる基礎の知識やより専門的な部分の教育をし、三年とか五年とか期限を決めといて、その間に必須の知識や技術をそこで身に付けることが出来たと判断されると、官吏として働き始めることができるんだ。そうやって文官の仕事が出来る人を増やしていくのはどうかな……えっと、舛花?」


顎に手を当てたまま、身じろぎ一つしないで聞き入る少女に環は首を傾げた。この時、舛花の頭の中は高速で回転していたのである。


今までは基準に満たないものは採用せず、多少足りないところがある程度であれば採用後に、現場レベルで教育を施すということが常であった。環の提案は視点を変えてその教育自体を体系立てて整理し、大規模に運用するというものであるであった。


確かに今までも求める水準に満たず、登用を見送った者たちもかなりある。そういった者たちをその養成所で教育し、求める水準まで引き上げることが出来れば、人員不足で頭を痛めている官吏の数をかなり充足できることは間違いない。


それに加えて、実際にその者の真価は採用の是非を決める試験だけで、容易に分かるものではないのであった。人柄や向上心、忠誠心といったものは一朝一夕で判断できるものでない。養成所にはそれを見極めるための期間を設けるという意味合いも見出すことが出来た。


勿論教える側の人手は取られるが、その分研修用として簡単な雑務を任せることができる人員がぐっと増えるのである。

考えれば考えるほど、必要な投資以上にリターンが大きい。形だけが似ているものとしては、在野の賢人が開いているごくごく小規模な私塾があったが、完全に目的とするところが違う発想である。


〝——なるほど〟と、狐面の男の話を舛花は目から鱗が落ちる思いで聞いていたのであった。


ふいに舛花が顔を上げて環を鋭い眼で睨む。

「あんたが思い描いている養成所の規模はどのくらいなの?」

「うーん、数十人程度の規模かな……」


その後も舛花は、疑問に思ったことを環に事細かに尋ね、環の拙い説明を真剣に耳を傾ける。環の方も可能な限りは答えるものの、根掘り葉掘り細部を聞かれても窮してしまう。彼には養成所と言えば、声優やナレーターの養成所くらいしか分からず、しかもあくまで生徒の目線であって運営者の視点ではないのであった。


それ以外に彼が通ったことのある教育機関など、学校くらいしかないのである。

しかし環は、桔梗とのやり取りから学校について公言するまいと決めていた。そもそも、民に学を授けるという発想は、民に政治的な発言力を持たせることと同義で、決して支配者側が考えることではないのであった。仮に環が現代日本の学校を提案したら変人奇人の騒ぎどころではない。白群の治政に不満を抱いていると取られかねないのであった。


「参考になったよ。草案をあんたと僕の連名で作ろうと思うけど、いいかな?」

「へ、いいけど何で? もう舛花も十分理解していると思うけど」


「そうだね。僕一人で白群様が満足される草案を作る自信はあるよ。でも、これは僕の矜持の問題。あんたの知恵を聞き、それに感心したから」

環の知に賛辞を送りつつも、舛花は敵視するような視線を向ける。

この時、舛花は環を自身にないアイデアを産む好敵手と評価したのであった。





   ×    ×   ×





場所は変わって、陽気な日差しに照らされる青藍市街の目抜き通りに移る。

和歌集を抱えて戻った環は、その後桔梗ききょう金春こんぱるに連れられて城下へ昼食に出かけたのであった。


「環君、今日は何の気分かな?」

大通りをぶらぶらと歩きながら桔梗が環に水を向ける。

「そうですね……」


何が食べたいかと尋ねられると、候補はたくさん思いつく。だが、それらを環は言葉に出来ずにいた。なぜなら現代日本では当たり前でも、こちらの世界では口に出来る料理など限られたものしかない。環は旧世界の料理を恋しく思っていたのである。


そんな彼に不意打ちが訪れる。

「———金春はパスタがいいですぅ!」

「へっ⁉」

威勢よく手を挙げる金春を環は思わず見つめてしまう。


パスタ——小麦を使った、そもそもがイタリアの麺料理。小麦自体がこのもう一つの日本にあることに違和感はない。だが、それがパスタとして提供されることはどう考えてもおかしい。


桔梗を見やると、彼女は眼鏡を光らせて口の端を吊り上げる。

それで環は察したのだった。どうやら万能の天才は食でもその万能ぶりを発揮したらしいと。


「じゃあ、私の行きつけのパスタ屋でいいかしら?」

環としても随分と久しぶりの洋食であるため勿論否はなかった。

「はい」

「パスタ、パスタぁー」

機嫌良さそうに繋いでいる手を大きく振る金春に、彼も笑みを浮かべるのであった。





店の前に立つ環は思わず唸ってしまう。

和風と中華風の折衷建築ともつかない店構えに平仮名で『ぱすた』と暖簾が掛かる。


その統一性の無さに座りの悪さを覚えるが、そう感じるのはもう一つの世界を知っているが故であろう。この世界ではこの意匠が問題なく受け入れられているということなのであった。


「ほら、入るわよ」

桔梗に導かれるように店内に入り、畳敷きの席に着く。


女将が桔梗の来訪に気づいて挨拶をしている間に環はあたりを見回す。客入りも良く繁盛しているようであるが、識字率の低い世界にも関わらずメニューが掛かっているところを環は不思議に感じるのだった。


「お兄さんは来るの初めてですよねぇ?」

「うん、そうだよ」


「ここはですねぇ、桔梗様がご贔屓にされているお店でぇ、桔梗様が発明された見慣れない料理とかが食べられるんですぅ。だから、結構お城の人とかも来てるんですよぉ」

「そうなんだ。すごいねぇ、桔梗さんは」


ある程度予想出来ていたので苦笑してしまう環であったが、腑に落ちる点もあった。それは客層が一般庶民ではなく、文字の読み書きが問題なくできるレベルの人々ということなのであろう。


「じゃあ、金春が環君にお勧めを教えてあげなさい」

悪戯っぽい笑みを浮かべる桔梗に、金春も笑みを深くする。

「お兄さん。このお店に来たらぁ、これを食べなきゃいけないって料理があるんですよぉ」


「へえ、それはどんなやつなの?」

「『ペペロンチーノ赤いの増し増し』というのですぅ。それはそれは美味しいパスタで赤色が食欲を刺激しますよぉ。是非お兄さんはこれを注文すると良いですよぉ」


(——これは辛いのを食べさせようとしてるなあ)

少女の悪戯の意図を環は簡単に見抜くのだった。


確かにパスタというものが普及していないこの世界では、料理名だけでは実態が分らず、食べてびっくりということになるだろう。


しかし、残念ながら金春の計画はそもそも二つの点で上手くいかないのである。

まず現代日本出身の環は、既にその料理を当然知っている。そして彼は辛いもの好きであった。現代日本ではそれこそ入手可能な調味料の豊富さはこことは比較にならない。  

そのため、環にとって脅威を覚えるような辛さを持つ料理など、この世界には実のところ存在しないのであった。


「うーん、どうしようかな……」

金春の悪戯に乗るか否かを考えていた環は、桔梗の眼鏡越しの視線に気づいてその意図を察したのだった。


「じゃあ、そうしようかな。おススメなんだから、金春も同じものでいいよね?」

「ふぇ⁉  金春もですかぁ?」

途端に狼狽え始める少女に追い打ちをかけたのは桔梗である。


「金春、人に勧めたものを自身が食さないというのは失礼なことよ。あなたも同じものを注文しなさい」

「……ふぁい」

窘められて半泣きで応じる金春、桔梗は少女に慈しむような視線を向けるのであった。


運ばれてきた皿に環は〝ほぅ〟と、感嘆の息を吐く。

ニンニクの芳ばしい香が食欲を刺激し、まさしく現代同様のペペロンチーノである。そして、増し増しで注文した分、刻まれたトウガラシが麺の間から顔を覗かせている。環は箸を手に取り、パスタを啜った。


(うん、美味しい!)

良く効いたニンニクに適度な辛みが舌を喜ばせる。舌鼓を打つ環の向かいでは、金春が額に玉の汗を浮かべながらトウガラシを増し増しにしたパスタに立ち向かっていた。


「うう辛いですぅ」

「ああ、金春。よく頑張っていて偉いわね。ほらお水よ」

その隣で笑みを浮かべた桔梗が甲斐甲斐しく汗を拭ってやっている。


これが桔梗が少女に向ける愛の形なのであった。好きな子にはちょっかいを掛けたくなるという気持ちは分からないでもない。だが、桔梗の愛はどうにも趣が異なるように環には思えてならなかった。





【舛花】

書物の中には、人一人の生では到達できないような様々な経験が知識として詰まっている。数学書はこの世界を数量的に理解するものであり、地理書は世界を広げて知ることができ、歴史書は時間軸で過去に遡ることができる。理学書はこの世界の原理と法則に沿って物が変化することを明らかにし、芸術書は人が生み出した文化を縮約している。


だから舛花にとって書庫はこの世界の縮図なのであった。それゆえ書庫を訪れて本を手に取らない者は愚かものであると彼女は断じていた。


そして今日、舛花は彼女の聖域である書庫で出会った珍客、狐面で目元を覆った女装の男——但馬環について思い返しながら歩いていた。

目的地に着いた舛花は思考を中断し、深く息を吐く。


「白群様、舛花でございます」

主の執務室の扉を前にして舛花は声を上げた。


「お入り」

入室の許可に舛花は扉に手をかけた。


知性を湛える深い瞳に、揺るぎない自負と威厳。藤原白群という人物ははその生を誇りへと転化し、矜持へと昇華してきたのであろう。

英傑たる天命を背負った孤高の主。


その敬愛してやまない姿に、舛花は思わず顔を綻ばせそうになるが、冷静さを取り戻すため頭を振った。

(———ボクの馬鹿、白群様の前よ。無様は晒せないわ)


「舛花、どうしたんだい?」

慕う主に名を呼ばれ、体に陶然とした疼きが走るが、それを包み隠して舛花は口を開いた。


「白群様。官の人員不足を解決するための草案を作成いたしましたので、ご覧になって頂きたく」

「——へぇ、いいよ」

白群の挑戦的な視線に応えつつ、少女は献策案を差し出すのだった。


舛花から書面を受け取った白群は書かれた案を素早く一読し、深く吟味するように瞑目した。

舛花は緊張した面持ちで主からの返答を待つ。


いつものことであるが、このジリジリと待つような時間がいたたまれない。これは部下からの献策を白群が見極めている時間であり、つまりは自身が白群に差し出せる価値を検分されているのであった。

(……問題ないはず。白群様のお眼鏡に適うはず)


舛花から見ても環の着眼点は良いもので、この国を間違いなく発展させる予感を感じさせるものだ。しかし、青藍に身を置いて間もなく、かつ官としても全体を俯瞰的に把握できていない環ではどうしても発想のいたるところに穴が出てきてしまうのである。


初めて聞いたアイデアの本質を見抜いた上で環の案の弱みを補い、すぐにでもこの藍で実行可能な水準の案にまで作り変えてしまうが舛花の力量であった。

そして、現に彼女は環の案を大きく作り変えていたのである。


それは環が提案した養成所だけでなく、その下位に位置づけられる教育組織も含まれていた。

その教育組織とは、将来的に官として働く者たち、つまりは現在の官の後継たちを予めまとめて読み書きや計算などの基礎的な教育を施す組織であった。それを舛花は学舎と名付け、白群に養成所とともに提案したのである。


その学舎では、養成所の学徒が今度は教える側に回って、子どもたちを教育するのである。そのため、今までは各家庭で教育を負担していたところを、養成所が特に知識面でその役割を一括して行うのである。


例えば、文官を輩出するような家系は高額な報酬を支払い教師となる人材を招くことが多かったが、この制度のもとでは見習いという身分ではあるが国として保証する人材に教えを乞うことが出来る。そしてその家が払った子どもたちの教育費が、教師役を務めた養成所の学徒が国に納めるための学費になり、藍としては場を整える支出だけで、人材を継続的に教育・発掘する機能を作り出せるのであった。


この場に環や桔梗がいたならば驚嘆し、少女の知性に舌を巻いたであろう。

なぜなら、期せずともそれは戦後の日本の成長を支えた教育システムに構造的に近いものであったためである。


かつての日本では教職に就く学生には学費として貸し出していた奨学金の返還を免除することで、多くの優れた教員を生み出し、彼らに子ども達の教育を任せるという正のサイクルを作っていたのである。


記憶力が評価されがちな舛花であるが、正しく彼女は天才的であった。

しばらくして白群は目を開く。


「養成所に学舎か……これを施行するとすれば、いつから出来るかい?」

「養成所は次の登用試験から運用可能です。学舎の方は予算的には問題ありませんので、養成所の学徒がある程度の水準に達したことが確認でき次第となりますので、最速で半年程かと思われます」


打てば響くような軍師の受け答えに、白群の口の端が吊り上がった。

「ふふふ、あははははは。良い! これはとても良いよ、舛花。是非これをやろう」


「はっ、お褒めにあずかり光栄です」

白群の賛辞に舛花も笑みを浮かべるのだった。


「ところで、環が連名になっているのはどうしてかい?」

「今回の献策の養成所は環の案を私が手直ししたものになります。彼にこそそのお言葉をおかけ下さい」


「なるほど、確かにその通りだね。でもそれをここまで詰めた君の功績もちゃんと認めるべきだ」

「もったいないお言葉でございます」


「ふふ、いい子にはご褒美をあげないとね。今夜僕の部屋に来なさい」

「は、はい、白群様!」

心の底かから喜びが湧き上がり、舛花は花が咲いたように笑顔になる。


「ふむ、そういえば、舛花。君から見て、環はどうは見える?」

「……環ですか?」


舛花は顎に手を当てて、先のやり取りを思い起こしていた。

文字の読み書きも覚束ない男から転がり出た妙案は、どう解釈したものか判断がつかなかった。


「彼は未だ文字の読み書きが出来ないようでございますが、彼にはこの舛花さえも持ち得ない発想があるように思います。言動の端々にも高度に教育された者であることが伺われますが、実際のところはなんとも。文字の読み書きを習得すれば、文官としても問題なく働けるのではないかと」


「ふむ、彼は文官としてもなかなか良い拾い物だったわけだね」

白群は満足そうに頷いた。

舛花は白群の考えを額面通り受け取ったが、その真意は異なっていた。


白群は、環が戦場における影武者以上にもう一人の自分たり得ることにほくそ笑んだのであった。

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