お狐様と周った
誰もいない鳥居の回廊をお狐様と一人と一柱で登っていく。
「知ってる?千本鳥居ってちゃんと千本鳥居があるわけじゃないんだよ」
鳥居の隙間から木漏れ日が垂れ、なんとも浮世めいた風情を感じさせる。
「そうなんですか?」
「うん、大体800くらいかな。千本っていうのはあくまで比喩だからね」
お狐様がトコトコと軽快に登るのに釣られて、俺も一段飛ばしで登っていく。
「つ、疲れた……」
「体力ないなー現代人は」
その結果、登りきる頃には見事に疲労困憊だった。正直舐めていた……。
「ここから三ツ辻を通って、頑張って四ツ辻まで行こうよ。絶景が見れるから」
「はい…」
歩きながら、ふと気になったことをお狐様に聞いてみる。
「そういえばお狐様はお社に住んでるんですか?」
「んん?えっと、いや、いつもは別の所。こっちで言う、異空間みたいなところに住んでるよ。今日は気分転換にこっちに来てたの」
「そうなんですね」
「あの社は私の家の玄関みたいなものなんだよ」
千本鳥居の区間を過ぎても、まだまだ鳥居の回廊は続いている。数えたら本当に千本以上ありそうだな。
「そういえば、さっきから全然観光客の人を見かけませんね」
「あ、それは君に術を掛けたからだね。……大丈夫だよ、別れるときになったらちゃんと解くから」
「そんなこともできるんですね……」
鳥居並木を進んで、看板の立つ分岐点に出る。
「えっと、どっちですか?」
「こっちこっち、稲荷山の方だよ」
お狐様の先導に従ってさらに進む。
視界が朱に埋め尽くされる中で、俺とお狐様の一人と一柱だけが存在しているというのは、なんだか不思議な心地だった。
「わ、お墓とかもあるんですね」
「いや、これはお墓じゃないよ。昔の家ごとに信仰してた神様を祀るお塚」
「え、こんなにいっぱい?」
「それだけ私たち…えっと、稲荷信仰が地域に根付いてたってことだね」
「いまさらながら、すごい人と話してるんだな。俺」
「そーだよ。感謝したまえ」
そう言ってお狐様が首を伸ばす。胸を張っているつもりなんだろうが、とてもかわいらしく感じてしまう。
「なんか失礼なこと考えてるでしょ」
「いえいえそんな滅相もありません!お狐様の偉大さに感服しておりました」
「ならよろしい」
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「三ツ辻到着!」
「結構、疲れましたね……」
「頑張って、四足歩行の私が頑張ってるんだよ」
「それ以前に貴女神様ですよね?疲れとは無縁なんじゃ……」
「そんなことないよ。……えっと、私がこの世界にいられる時間は有限だから、早くしないと消えちゃうんだ」
「それは……いわゆる、死亡ってことですか?」
「いや、家に戻るだけ。ただ1日は外に出れないかな」
「そうなんだ。……なら大丈夫か」
「何が!?私普通に君と周りたい――あっ」
「どうかしましたか?」
お狐様がツッコもうとして、急に言葉を止めた。
「……ううん、なんでもない」
「ええ、気になるな」
「ちょっと、私が神様だってこと忘れてない?敬いたまえよ、君なんか指一本でどうとでもできちゃうんだからね」
「そんなことないですよ。ちゃんとわかってますって。お狐様人間みたいだけど」
「っ……も、もう、置いていくからね!」
そっぽを向いてトコトコ歩いていく後ろ姿にはまさにプンスカという擬音が似合うだろう。
笑いを堪えながらそれを追いかける。いや無理だろう、こんな人間らしい神様に親近感を感じないなんて。
ずんずんと進んでいくと、ぽつぽつと土産物が売られている店が出てきた。
「すみません、ちょっと自販機で飲み物買いますね」
「分かったー」
お狐様の言う術に掛かっていても自販機は動作してくれた。
清涼飲料水の蓋を開けて久しぶりの水分を摂る。
「ぷはー」
「いい飲みっぷり」
「すみません、行きましょうか」
その後もいくつかの神社に出会いながら奥へと進んでいく。
「ねえ、君、神社がある度にお参りしていくけど、何をお願いしてるの?」
四ツ辻の手前の神社で手を合わせていると、横にいるお狐様からそう聞かれた。
「妹が病気で入院してるので、病気が治りますように、と」
「あ、妹さん、病気なんだ。……ごめんね、無神経で」
しゅんとお狐様の尻尾が垂れる。
「大丈夫ですよ。ちょっと体調が悪くなっただけ、ですから」
再び歩き出す。
「そういえば一人で来てたみたいだけど、ご家族は?」
「聞いてくださいよ!急に祖父に連れてこられたんですよ。寝てる間に車に乗せられて!酷くないですか?」
「乗せられてることに気づかない君も悪いとは思うけどね……」
「まあ、受験勉強の息抜きにもなるし、祖父には感謝してます」
「あ、受験生なんだ。もしかしたら私と――ううん、なんでもない」
「まあ偏差値高めの高校なんで、余裕もそんなにないですけどね」
「高校受験……!」
なぜか目をキラキラさせるお狐様。神様にも試験とか受験とかはあるのだろうか。
「そういえば四ツ辻まであとどのくらいですか?」
「んっとね、もうちょいだよもうちょい」
「信頼していいんですかそれ」
「お?我神様ぞ?いいのかそんな態度で」
「なんかお狐様は優しそうだからこのくらいは言い返しても大丈夫じゃないかなと思って」
「調子に乗りやがってぇ……!」
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「とうちゃーく!」
案内されたのは、四ツ辻から少し外れたところにある開けた所だった。
「ここは……」
「
お狐様が自慢気にこっちを見てくる。確かに絶景だ。京都市内が一望できる。
「空が住んでるとあべのハルカスが見えるよ」
「本当ですか?あ、任〇堂のロゴが見える。ここに会社あるんだ」
「任〇堂いいよね。私も……あっ」
「へー、神様もゲームするんですね」
「ま、まあね。人間のトレンドについていくのも神様の役目だからさ」
しばらく景色を眺めた後、なだらかな土手に座り込む。
その横にお狐様も座った。
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