第12話 夏枝追葬譚 -本懐編-

作品紹介(前書き)

「夏枝追葬譚 -導入編-」を読んでくれてありがとう!


もし導入編で「結局何だったの?」と感じてしまった方がいたら、まずは心からごめんなさい。この本懐編では、夏枝の「願い」やその奥にある想いをしっかり掘り下げてお届けします。


このエピソードは、物語の大きな構造の一部。皆さんをさらに深い世界へ案内するための大事な一歩です。夏枝の心の旅を通じて、皆さんの心に小さな「待ち針」を刺せたらいいなと思っています。


答えは物語の最後で。でも、それがどう響くかは、あなたの心次第。


少し不思議な旅路ですが、最後までお付き合いいただけたら嬉しいです!


題名-為政者たる世界-

虹色の扉の先に広がっていたのは、つかみどころのない世界だった。


そこは記憶でできた世界。だが、記憶には秩序なんて存在しない。


ある場所では、筋骨隆々の男が剣と己の筋肉だけを頼りに、異様な化け物と戦っている。別の場所では、二人の女性が馬に語りかけ、言葉を交わしていた。なんともちぐはぐな光景だ。


バラバラの記憶が「キリトリ線」で不規則に縫い合わされ、奇妙なパッチワークのような世界を作り上げている。


ふと目を上げると、そんな記憶の断片が、水平線の向こうまで果てしなく連なっていた。終わりなんてないように思えた。


(ここには終焉なんてない。ここは、人が願った“縁”の世界だ)


(もし、この縁が他者の縁とつながるとしたら……この果てしない世界の先には、何があるんだろう)


そんな希望を、俺は抱いた。

そうであれば、どこへでも行ける。魂が望むすべてを手に入れられる。


俺は知っていた。この歪な世界には、いつだって戻って来られることを。なぜなら、人間は「眠っていても、起きていても」常に夢を見ているのだから。


目を閉じて、もう一度開くと、俺はすでに“覇王”の装いをしていた。王冠とケープを身にまとい、この世界の頂点に立っていた。


そして、俺は高らかに宣言する。

「今なら創造主にだってなれる! 神なんていらない! この世界では、すべてが俺のものだ! 誰が終焉を望む? いや、俺が法だ。俺がすべてを裁いてやる!」


……俺は、ずいぶんと上機嫌だった。

今この瞬間、この世界の“為政者”は俺だ。


けれど――その後の俺の行動は、あまりにも醜かった。あらゆる欲望を叶えようと、豪華絢爛なものを手中に収め、人生の“絶頂”を貪るだけの存在になった。悪辣非道な存在に。


この世界には“本物”なんてない。すべては俺の作り出した幻。痛みも悲しみもない、「偽物」だけが存在する。


だからこそ、俺は「奪ってもいい」と、一瞬でも思ってしまった。

――その瞬間だった。俺は“為政者”の姿を失い、“いつもの俺”に戻った。


世界が正常に戻ると、物語の歯車もまた元通りに動き出す。

「もう、帰る時間だな」


そう呟いて、俺はこの恋焦がれた場所に別れを告げた。


-場面転換-

俺は来た道を戻り、通り過ぎた扉を辿って、いつものロータリーへと急いだ。扉が消えてしまう前に、戻らなければならない。


目覚めの悪い朝に感じる嫌悪感、あれは「来たルートで帰ることができなかった」時に生まれる。

夢の途中で無理やり覚めてしまう――あの消化不良の感覚の原因だ。


縁にいる俺は焦っていた。この旅路が長くないことを知っている。現実の俺は、ただの昼寝をしているだけ。何か用事ができれば、すぐに目を覚ましてしまう。そうなれば、夢の連なりは断ち切られ、不完全燃焼で終わってしまう。


目の前で、水の粒のようなものたちが集まり、扉が少しずつ形作られていく。

俺は拳を強く握りしめ、「出ろ! 出ろ!」と祈るように願った。


背後にあった継ぎ接ぎの世界は、徐々に崩れていく。現実の俺が目を覚ますまでの猶予は、もう残されていない。


「出ろ……! 出ろ……!」


必死に願っても、熱は帯びず、扉はウンともスンとも言わない。ついに足場が崩れ、大きな穴が空いた。


俺はギリギリで残った足場にしがみついた。

「まだ……起きるんじゃない! 俺は……まだ、ここにいるんだ!!」


その叫びも虚しく、大穴の底へと、俺は引きずり込まれていく──。


――本編、第9話「単純冥界な旅」へ続く――


あとがき

「夏枝追葬譚 -本懐編-」、最後まで読んでくれてありがとう!


この物語は、夏枝の心の旅を通じて「縁」や「願い」を描く、ちょっと不思議な一編になりました。次は「単純冥界な旅」へと続く予定で、そこでまた新しい世界が広がります。


実は、このエピソードは「神材派遣管理会社ユル」の第一章を締めくくる大事なパート。第二章では冒険活劇や謎解きが本格化するので、楽しみに待っていてくれると嬉しいです!


ただ、ちょっと説明が長くなってしまった部分もあるので、「まだ全貌が見えない!」と感じた方もいるかも。その点はごめんなさい。もう少しだけ、気長にお付き合いいただけたら幸いです。

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