第13話「少女の目覚め」

たしかに、うちの家はちょっと“特別”かもしれない。

でも、自分がしたわけでもないことでからかわれるのは、やっぱり納得いかない。


みんなは私のことを「裕福」だって言う。

だけど、正直、私にはよく分からない。

裕福って、どんな感じなの?


お父さんは、このあたり一帯の土地を持っている。

正確には、曾祖父の代から受け継がれてきた土地らしい。

昔、お父さんに聞いたことがあるけど、話がややこしすぎて、頭に入ってこなかった。


どうやら曾祖父は、「かつての王国の分家」に連なる人だったとか。

でも、それも祖父から聞いた話で、確かな証拠はないんだって。

家の中では、まるで昔話みたいに語られるだけ。


夜、薪の火を囲んで、家族でそんな話をすることがある。

「曾祖父はお金持ちだったんだよ」とか、

「モテモテだったらしい」とか、

「とんでもなく自由な人だった」なんて、笑いながら話すの。


でも、最後には、曾祖父は自分の身分に悩んだんだって。

三十七歳のとき、伝統も何もかも捨てて、土地の権利書だけ握りしめて家を飛び出した。


一族は大騒ぎで探し回ったけど、曾祖父も権利書も、ついに見つからなかった。

そして、本家そのものが、時代の流れの中で消えてしまったんだ。


残ったのは、曾祖父と、その権利書だけ。


曾祖父はその権利書を手に、この農村にやってきて、

なんと農家になることを選んだ。

……変な話よね。私にも、よく分からない。


それから時は流れて、お父さんは農業の管理をする仕事に就いた。

そこでお母さんと出会ったの。

お父さんは今でも、照れずに言う。

「お母さんは金色の天使だった」って。


お母さんは農家の娘で、小麦を束ねている姿に、お父さんは一目惚れ。

毎日毎日アプローチして、ようやく振り向いてもらえたんだって。

そんなふたりの間に、私が生まれた。


私のこと?

うーん、特別なところなんて、何もないよ。


みんなが「裕福」って言うのは、私じゃなくて、お父さんのこと。

この土地と、粉挽き風車二台を持っているのは、全部お父さん。

私は……ただ、そこにいるだけ。


「私が裕福なんじゃなくて、お父さんが裕福なのよ」って言っても、

みんな、呆れたような顔をするだけ。


きっと、みんなは私のことを「裕福」って呼べば、

自分がみじめじゃないって思えるんだろうな。

……そんなふうにしか、思えないの。


みんなを見返してやりたい気持ちも、ときどき湧いてくる。

でも、そんなことしたら、もっと面倒なことになるよね。

それは絶対にイヤ。


私にも、あの曾祖父の血が流れてるのかな。

お父さんの娘なんだから、ありえない話じゃないよね。


私はナーレ。

この農村にいる、ただのナーレ。

ここが、私の居場所なんだ。


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