第二十六装 『つれていくよ』
『まもなく三ノ宮、三ノ宮です。お出口は右側です。ハンキュー、ハンシン、
二人は目的の駅、三㋨宮に到着しギュウギュウの電車から勢いよく抜け出した。
「あ゛あ゛あああ!!! 全くなんという地獄!ニンゲン蒸し焼き器かあれは!?」
「うーん、まあおおむねそんなとこかな……あっち~…………」
七月もいよいよ後半に差し掛かり汗がじりじりと出てくるような暑さが襲おうとしていた。肉詰めのように押し込まれた人たちに挟まれれば、こんな風に汗びっちょびちょになるのも当然だろう。
階段を降りて改札を抜け、二人はついに町に足を踏み入れた。
『Welcome to Sannomiya~♪ ようこそ、日本の誇る美しきネオシティ。三㋨宮へ!』
町中の至る場所に設置されたスピーカーから立体音響でアナウンスがされる。
それと同時に視界には、想像したことも無い世界が広がっていた!
「おいアルマ!? 空に……空にCMがッ!!!」
コハクが指さす方を見ると、プロジェクションマッピングのような半透明の広告が空から彼らに手を振っていた。
「いやコハク!? 車が……車が空にッ!!!」
アルマが見る先には、タイヤの無い謎の乗り物が超高速でビルの間をすり抜けていった。
側面には『FIVERO COOP.』と真っ赤な文字と共に星のマークが描かれている。
他にも立体カードバトルで遊ぶ子供たち、歩行しながらバーチャル会議する中年のおじさん、まるでパリコレにでも出演するのかと思うほどオシャレでハイセンスなコーデのヤングガールズ。
今までいたような寂れた心の貧しい生活からは想像もつかない、華やかで煌びやかな世界。
「ははッ、ようこそ
イケてる兄ちゃんからウインクと共に励ましの言葉を頂いた。
青い髪にチャラさの代表鼻ピアス、隣にいるかわいいギャルの女の子も楽しそうに手を振ってきた。
(
アルマは兄ちゃんの言葉の不和に首をかしげるが、言われた内容についてはすっかり同情してしまっていた。
だって白Tにカーゴパンツだ。彼の無頓着さには全くあきあきするものだ。
「さぁてシティボーイ殿、念願の三㋨宮に着いたわけじゃが…………まさかここで一日を過ごすわけじゃあるまいな?」
アルマはじれったそうにコハクを見つめながら周りの様子を伺う。
飲食店、モール、娯楽施設…………三か月ぐらいは飽きなさそうなコンテンツの数々。おもわず期待を込めてしまう。
行きかう人々はまるでタイムラプス動画の様にせわしなく二人の周りを動き続けていた。
「もちろん! 俺さ俺さ、ずっとしたかったことあって。さっきの兄ちゃんも言ってたやつだけどさ…………服、選んでくれね?」
「もちろんじゃとも! 全く、お主のその軽装。武装王としてのプライドがずっと許さなかったのじゃ!」
「じゃあさっさと言えばよかったのに……」
「言っても効かんからなァ、お主は。また怖がるんじゃないのか~?」
アルマは一瞬で魔力探知と『音波操作』のスキルを併用し、一瞬で周囲のマッピングを行う。
この日のために隠れて練習していたかいあったのか、半径50m以内の全ての店の場所が鮮明に読み取れた。
自身が事前に仕入れていたネットの情報、そして今読み取った賑わいや混雑状況を照らし合わせ最適解を弾き出していく。
(ROzE、グレイト・ロジャー、Punk☆Funk。今のところの当たりはここじゃな、今は12時半じゃから徒歩で15分。2、3店舗ほど見て回った後昼飯にするか。と考えると早いうちに予約を取っておけばあの店の繁盛度合を見ても━━━━)
「そんじゃ、行くか!」
「ん、待てコハク。今ワシがいい店を調べて…………」
その瞬間コハクに右手が伸びアルマの口をすっと閉じさせる。
「今日は、『俺がエスコート』するから。俺が楽しいデートに…………するからさ、任せてくれよ。」
コハクは眉毛を吊り上げ格言を言い放ったかのようにドヤ顔を見せる。
彼の口、右手に持っていたボロボロスマホのメモ、そしてそのオーラ。
テクテクと迷いなく歩いていくその姿に、無言のまま身を任せる。
(こやつどうやら調べ上げていたらしいのう、それもかなり詳しく。初めてのデートというものは、皆このぐらい張り切るんじゃろうか。…………全く必死じゃな!ガハハ!!!)
さっきまで高性能スキャンしていたとは思えない心の声を上げるアルマ。
いやもしかしたら恥ずかしさを紛らわせるために、そうしているのかもしれない。
「ふんふ~ん♪ ある~日♪町の中♪コハクが♪エスコート♪」
「なんだよ、その替え歌。」
「すたこらさっささ~のさ~♪ビビッて逃げました~♪」
「逃げねえよ!? 誰が臆病だコノヤロー!」
上機嫌な左腕にキィっと牙を向く。
普段ならばなぜ上機嫌なのか、なぜ距離が近いのか聞く所だが。
今日は…………やけに心の内が読める。
二人の時間は、まだ始まったばかりなのだ。
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