第十八装 『〝エッジ〟の効いた新能力』

紫色の血が巻き散り、臓器がデロンと溢れ出す。なんとも悍ましい光景、倒れた男が見たらもう一回気絶してしまいそうだ。


特にこの狂うように笑う悍ましい殺人犯サイコパスレフトハンドなんて見たら…………



「んん~!血はいいのォ!戦闘意欲が高まる!!!」

「俺ビッチャビチャなんですけど、クリーニングできる訳ないんですけど。どうしてくれんのコレ…………」


俺のお気に入りの服は肉片の混じった血によって綺麗に紫色に染め上げられており、鉄の匂いで鼻が曲がりそうだった。本当にこの左腕と来たら、破壊意欲マシマシな大バカ者である。


手で何とか汚れを払い続け血を絞り肉片をぽいぽい投げ捨てる。

がコハク、その厄介な痕跡はすぐに消えることに気づくのであった。


『スァァァァ…………』

「おぉ、光の粒子。経験値じゃ!」


血も臓物も、パラパラと崩壊して光の粒子へと姿を変えていく。奴の経験、知識、記憶を持った莫大なエネルギーの塊。

ダンジョンが腐った匂いでいっぱいにならないのは、この『浄化作用』のおかげであった。


「よ……よかった…………流石にこの汚れは重曹一キロ三日漬けしないとやばかった…………」

「ガブリィ!」


そんな家事に一切の興味を示さないアルマはすかさず粘体変化で腕を伸ばすと、口を大きく広げ一気に経験値を貪り尽くす!


アルマにしかできない、『経験値の完全吸収』。今の俺たちを支える最高の能力だ。



「さあ感じるのじゃコハク、力の奔流を。エネルギーの流れを!!!」



アルマが捕食した光の粒子は、スライムボディを伝って俺の体へと流れてくる。


血管を熱湯が通るような、小さい穴に糸を通すような。なんとも不思議な感覚が左腕に走り、心臓の方へと向かう。

体が感じるままに脱力して天を仰ぐと、天井が遠く離れているかのような感覚に陥った。


「お、おお〜。めっちゃ良い、魔力というか気力が増えた感じがする。」

「それだけじゃないぞ、ワシの力も増しておる!このままいけば30年ぐらいで元の体を取り戻せるかもな!」

「お前元の体どこいったんだよ……っていうか30年も付き合うのかよ…………」



そうは言いつつもコハクはその覚悟はできていた、あの夜に誓った言葉は今も彼の心の中に宿り闘志としてメラメラと燃え上がっている。なんのために、誰のために。そんな道理は関係ない、アルマと共に世界を変える。


このアルマの捕食こそ、それを叶える近道なのだ。



全て吸収し終え、身に宿る魔力の高まりを感じる。最初に比べるともう十何倍ほどの

魔力量に達していた。



「そろそろ術が使えると良いけど……」

「お主……その魔力量で使えると思っておるのか?」

「え、でもかなり強くなってきたと……」


はぁっとため息をつくアルマ。若干腹立たしい顔をするがその目に嘘は映っていなかった。



「成長してるのは事実じゃが、今のお主は粕汁の中の滓。つまりカスじゃ。」

「カスって言いたいだけだろ……」

「今何かしらの術を使えば、魔力が足りなさすぎる。臓物や大脳の二、三個を犠牲にしてようやく微風を起こせると例えた方がええかの。」


要するに、不可能と言いたいのだろう。なんとも虚しい話だ…………


今使っているスキルのように内側や自分に作用するものだけではやはり足りない、もっと魔法のような外へ影響を与えるものが欲しいところなのだが。

そんな都合のいい状況は果たして訪れてくれるのだろうか…………


ん?



「あれ……もしかしてこれってさ。」


コハクは草っ原に落ちていた光る何かを見つける。

魔石ではないナニカ。ゴツゴツして鋭く、少し長くて……???



目をギョギョッと出しながらそのアイテムに驚愕する二人!



「ア……アルミラージの穿角!??」

「ああ、さっきの戦いでドロップしたんだよ!こんな鋭くて強そうなツノ、アイツの他にいるわけがない!!!」


アルマはきらきらと目を輝かせながらよだれまみれの口を徐々に近づけていく。今にも食らいつきそうな勢いで近づく腕に、思わず体も引っ張られる。


……っていうか、少し美味しそうに見えるのは気のせいだろうか…………


「喰っていいのか!?も……もう喰っていいのか!??」



コハクは右手でサムズアップし、アルマの抑止を解く!



『ガリゴリガリゴリ!』

「こ……これはッ! 顎が粉砕寸前になるほどの硬さ、頬を突き破りかける鋭利さ、そして何より密度の高さ!!!これはいける、いけるぞォォォ!!!」



ムシャムシャと食べ進めるアルマ、また綺麗な光に包まれ腕から体へと力の筋が流れる。


それに加え左腕の外側に出っ張りが出始め皮膚が固くイボの様に発達していく。

まるで肉体が新たな能力に合わせるカスタマイズように、最適化されていくのがよくわかる。



「ア……アルマ!見ろこれを!!!」

「これはッ……もしやッ!!!」


まばゆい光が霞のように消える中、腕にあったのは────





『ニョキ』


アルミラージのツノ。

しっかり一本生成されていたのだ。


(やっぱり……吸収すればソイツの特性を使えるようになるのか!)



≪新たなスキル『穿角生成』を獲得しまシタ。≫

≪『穿角生成』。アルミラージのツノを吸収して獲得した固有スキル、熟練度アリ。≫



「やったぞコハク、新たなスキルゲットじゃ!!!ギャハハハハ!!!」

「ああ、アルマ。これでアイツみたいにドリルできるんじゃねえか!?ってか体中からドリル生やせば…………」



天元突破しそうなイメージが頭の中によぎるコハク。

悦に浸り益々未来への希望が止まらないアルマ。


彼ら二人を止める者は、もうにはいない。




「ギュギュイ!」「ギュイキュイ!!!」「ンギャイ!!!」


そう、それは仲間の死を感じ取り群れでやってきた『奴ら』も。

威嚇したと同時に、後悔することになったのだ。




「スキル……ツノ…………」

「くれェェェェェ!!!!!」

「「「ンッギャアアオオ!!??!?!???」」」




━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━




名前ネーム:クロガネ・コハク

威名アマラ:“武装者”

階級ランク:E級探索者ネザランナー

行術:無し

伎能スキル:【特異術ユニークスキル】:『武装王』…万物吸収、能力復元

   【普遍術コモンスキル】:『肉体硬化』『粘体変化』『肉体強化』『穿角生成』


   【耐性術レジスト】:精神耐性〈小〉、衝撃耐性〈小〉


装備

・朽ちたブロンドソード「ナマクラ」

・石拳

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る