第十七装 『コハク・イン・ラビットランド』

「ウウング!!?」


真っ赤に染まった眼と合ってしまい、思わずテンパってひっくり返ってしまう。先ほどの個体は既にあの男と格闘しているはず、つまり目の前にいるにはまた別の個体ということか。


ぴょんぴょんと近づくその姿には尖ったツノが生えており、先ほど見た恐ろしい光景をフラッシュバックさせる。



「アルマ、ガードよろしくな?」

「ワシが?ワシがガードするのか?」

「当たり前だろあんなの刺さったらポックリ地獄行きに決まってる!」



ウサギは俺の殺気を感じ取ったのか突如恐ろしい形相でツノに魔力を込め、足に力を貯める。

まるで一撃で殺すかのように、ゆっくりとそしてずっしりと魔力を固めてその機会を伺う。


アルマはその様子に気付き肉体硬化で硬い石の盾を作り、コハクとウサギを隔てる。



「やっぱりじゃコハク、コイツはただのウサギじゃない!ツノが生えたウサギの魔物…………」

『ギュゴゴゴゴ!!!』


ウサギは全身で大回転しながら、ドリルツノで石の盾に突撃する!

その怒涛の回転はグイグイと食い込んでいき、ヒビを入れていく。


なんだこのバケモノはッ!なんだこのドリルはァァァ!!!



穿兎アルミラージじゃァァァ!!!」

『バキグショメキィ!!!』


砕ける音と共にアルマの盾を貫き腕を穿つアルミラージ!

ここまで……ここまでの強さなのか!?


「うがああああああああああ!!!!!」

「アルマァァァ!!!」


苦痛に近い叫び声と共に目を見開いたアルマは腕をバタバタと振り回す。

そりゃそうだ、腕を貫通されたのだ。コハクは焦っているからか痛みはあまり感じられなかったが、きっとアルマが直前に痛みを肩代わりしたんだろう。


(俺を……庇って…………)



悶え苦しむアルマ、どうにか離そうと手を近づけるがドリルのように高速回転するアルミラージに手が出せない。



「う……あ、後は……頼んだ。あい……ぼ…………」

「おいアルマ?」

「………………………」


そして俺の左腕は、その命を…………終えた。


何度も揺すり返答を待つが、その赤き瞳は重く閉じられだらりと口を開けて動かない。アルミラージの動きを止めることも、アドバイスを送ることもしてくれない。



(アルマがやられた?……そ、そんなはずは…………)


しかしそれを好機と捉えたバケモノウサギは、回転を続け徐々に徐々に腕の孔を広げ俺の方へと向かってくる。


『ギュゴゴゴゴ!ギュオゴゴゴゴ!!!』

「くッ!やめ……ロォ!?」



思わず尻からひっくり返り草っ原にひっくり返ってしまう。


妙に明るい天井、そして広がる平原。一見幻想的な世界に見えるが、実際は命をかけた熾烈な戦いが繰り広げられる。

どうにか腕から引き剥がすため、地面にバンバンと叩きつける。



「ギュイ!ギュイギュイ!!!」

「こ……コイツ!頭も突っ込んできやがって!」


孔はますます広がり小さな頭が入るほどにまで拡げられる。このまま身体がすり抜ければ、俺の心臓をトマトペーストのようにぐっちゃぐちゃのバラバラにしてしまうだろう!それだけは……それだけは避けなくてはいけない!!!


しかも人目にあまりつかないような場所を選んでいたため、近くには倒れた男しかいない。援助は期待できないだろう。



(マズイ……このままじゃガチで……ガチで死ぬ!コイツを剥がそうにも動き回って掴めねえ!肉体強化したところで耐久力には期待できない、ツノを持つのは不可能!)



断崖絶壁大窮地、左腕は応答なし。

暴れる兎に大ピンチ、いよいよ俺も!?


ドリルがいよいよ体の目の前に迫り、俺は一か八か魔力強化と肉体強化を施した右腕を向ける。



「腕がイかれようと、動きをッ…………」


回転するツノを掴もうとしたその時であった。




『グググ……』

「ギュイ!?」


突如動きを止めていたはずの左腕に力が入り、アルミラージの体を圧迫し始める。まるで握りつぶされる前のリンゴのように、ゆっくりと肉体が押し潰れていく。


肉体強化はあくまで筋力を強化し、魔力強化は魔力のエネルギーを体に流し込む。肉体そのものを操作できるスキルなど、コハクは持っていなかった。


(ま……まさか!??)



赤き瞳が、カッと見開いた!


「ギャハハハ!引っかかったのォバカウサギィ!これが名女優アルマの実力じゃァァァ!!!」

「ギュギュイイイイ!??」


ゲラ笑いをしながらアルマは完全復活、拡がった孔はいつの間にかスライムボディで修復作業が進んでおりアルミラージは完全に捕縛されていたのだ。


粘体同士は高密度で結合することでその肉体強度を保っている。その結合力は並大抵の硬度では…………



「ギュウウウウ!!!」

「耐え切れんじゃろうなァァァ!ツノが進化しても、頭は進化しなかったんじゃのォ!!!」


アルミラージの顔はもはや可愛いウサギではない、悪魔…………悪魔そのものに近かった。あんな化け物に心を奪われていたなんて、血迷ったか俺は!?


いよいよ締めにかかるアルマ、俺はそれに合わせ左腕をまっすぐ上へと掲げた。


その姿はまさに、勝利の証。



「処刑じゃあああ!!!」

「ギョエエエエエ!?」


完全に腕の孔が塞がると同時に、体は二分されエビの身のようにブリンと地面に弾き出される。



「おォ、おおお!!!血肉じゃ血肉じゃァァァ!!!ギャハハ!ギャハハハハ!!!」

「あぁ……服がベッチョベチョなんですケド…………」



こうして狂喜乱舞する処刑人によって、暴れウサギは狩らハントれたのであった。











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