第十六装 『Don’t 喰らい?』

四日目。



今日も元気にダンジョン攻略!

コハクとアルマは二層にある階段の前に立っていた。そう、さらに次のステージに行くために。



「どうじゃコハク、いけると思うか?」

「ちょっと待ってよアルマちゃん!二層に降りてまだ1日だよ!?それなのにもう次の層へなんて、行けるわけッ…………って言うと思うか?ああ?」


昨日は各地を巡り、二層のスライムとゴブリンを徹底的に締めあげていた。しかも新たに判明した『経験値の完全吸収』というウォンカチョコよりも甘い誘惑に乗せられ、手当たり次第バチボコに倒していったのだ。


結果的に筋肉痛と共に3倍の量を誇る魔力を身に宿すことになったのだ!!!



「昨日は家に帰るまで何十分かかったと思って…………はぁあ〜……」

「まあええじゃないか、ワシが血流を活発化させて老廃物を取り払ったじゃろうが!ワシはすごい!褒めろ!!!」



むふーっとするアルマにため息が止まらないが、確かに言っていることは間違っていなかった。

俺が寝ている間にアルマは、いつも血流を調整してくれる。もちろん俺が死なない程度にだが。おかげさまで連日のダンジョン潜りで溜まった多大な魔素や酷使した肉体の老廃物も、次の日には綺麗さっぱり洗い流されているのだ。



「まあありがとな、おかげで次の層へ行ける。」

「チッ、全く感謝が足りないガキじゃ。ほれ行くぞ、新たなスキルをバチ喰ろうてやるんじゃ。」



そうして俺たちは意気揚々と下へと降りていったのだった。






────『獄門』ダンジョン 第三層。


階段を降りた先、さらに濃い魔素が充満している新たなステージ。



「な……なんだこりゃ…………」

「フッフッフ、どうじゃすごいじゃろ!?この景色こそまさにダンジョンの神秘よ!!!」



なぜこんなにもコハクは驚くのか、理由は簡単。

『草』が生えていたからだ。


今までいた一層や二層にはどこにも生えていなかった植物、それが辺り一面に生え草原のような緑の大地を形成していたのだ!



その壮大な草原に思わず掠れた声を出しながら、ポカンと口を開きっぱなしなコハク。水晶玉ぐらいなら余裕で入りそうなその様子にアルマは説明をする。



「ダンジョンの魔素は文字通り。魔物の肉体を形作る源じゃが、元はと言えば莫大なエネルギーの塊。外世界の環境を真似るぐらい造作もないじゃろう。」

「へぇ〜、ってことは出てくる魔物もその環境の方に寄るんじゃ……」


そういって緑の大地を眺めるが、魔物の気配は一切しない。

まあ鈍感だから感じないだけかもしれないが……



だが、ちょうどいいところに探索者ネザランナーがたむろっていた。せっかくだ、一般人の動きを見てみることにした。


「見せてもらおうか、自分より強い探索者ネザランナーの性能とやらを……」


ゆっくりとかがんで草むらの中に隠れ、ゆっくりと男の近くへとたどり着いた。



「さーてと、そろそろここいらで出てくると嬉しいんだが?」


鉄製の剣を鞘から抜き、周りに集中する。幸い魔力感知を使っていないためコハク達のことには気づいていないようだ。


「まさか初めて一週間で三層に行けるなんて…………俺やっぱセンスあるのかな!」


ぶつぶつと独り言を発しながら周りに気を張る男に、俺はドキッと胸に言葉が刺さる。俺だって本当は行けたし!っていうか安全第一だし計画的だしィ!!!


さわさわと流れる草達は、穏やかに心地よい音を立てる。とても魔物がいるとは思えないほどの、ゆったりとした時間。いったいどんな魔物がいるのだろうか……



そんなことを考えていた時だった。



「プゥプゥ!」

「き……来やがったかッ!?」


突如聞こえてきた可愛らしい鳴き声に、男はより一層剣を強く握り目を見開く。まるで小動物のような、愛らしくて思わず近寄りたくなるような。


カサッ、カサカサと徐々に草の揺れが男に近づいていく。3m、2m…………近づいていく。



「そこだァァァ!!!」


そして、剣の間合いに入った。



『ズサァァァァァァ!!!』


キラリと光った鉄の剣は意気揚々と男の手によって鋭い回転斬りを披露する!


スルッとした感覚と共に切られた草は空へと舞い、緑の紙吹雪がひらりひらり。なんとも和風な雰囲気を醸し出すその攻撃は、まさしく『浪人』。



(こ……これが『舞い』!? やっぱ本物はスゲェ…………)



感心している横でアルマは必死に魔物の姿を探し出す。やけにビビっているようだが、そんなに恐れるものなのだろうか。




はらはらと落ちていく尖った葉を見て、男は仕留め損ねたと舌打ちする。


しかしソイツはまだ、彼の前から逃げてはいなかった。



いや、『逃げられなかった』とでも言うべきか。



「キュ……キュウ…………」


そこにいたのは縮こまってしまった…………ウサギ!?!?


白いモフモフとした毛皮にラズベリーのような鮮やかな赤い目、今にも地面にめり込んでしまいそうなほどに頭を伏せ必死に落ち着きを取り戻そうとしている。


男はその姿を見て急に心苦しくなったのか、剣を納めよしよしと頭を撫でる。



「お〜〜ごめんなごめんな〜。ウサちゃん怖い思いしちゃいましたね〜?」


ウサギは撫でられてようやく身の危険がないことを知ると、鼻を手に押し当てスースーと息を吸い込む。

なんとも可愛らしい様子に男も俺もメロメロになってしまう。


「なんだよアルマ、あれ魔物じゃねえじゃん?」



とろける顔で左腕を見るが、アルマはまだ警戒を解いていなかった。

しかも解くどころではない、左腕に石の爪を武装しいつでも臨戦態勢に入れる状態であった。


何を一体怯えることがあるのだろうk…………ああなるほど、そう言うことか!!!



「お前〜さてはあのもふもふに嫉妬してるんだろ〜? あいつの方が可愛いからってそりゃないぜ?」

「違う!本当のワシはあんなのより五那由多倍かわいい!…………っていうか嫉妬ではない、よく見ろアレを!」

「アレって言われたってただの可愛い…………」



男はウサギを野に帰し振り向いて立ち去ろうとしていた。

が、その瞬間ウサギの眼がギラリと光る。まるでこの状況を待っていたかのように!!!


『ニョキィ!』

「なッ!?」


ウサギの頭に、突如一本の鋭いツノが生える。

少しクリーム色で螺旋のように渦巻く20cmほどの鋭利なソレは、突如魔力を纏う。


「キュイィィィ!!!」


持ち前のジャンプ力を活かしたツノ特攻!恐ろしい突撃に男は対応できず絶叫しながらひっくり返る!!!



「おああ!!!や……やめェ!…………ぐおおおお!!!」

『ズゴゴゴゴ!ズゴゴゴゴゴゴ!!!!』


男から聞こえる恐ろしい音声にコハクはぞくっとする、早くここから立ち上がりあの化け者から逃げなくては!!!このままでは…………死ぬゥ!?



地面に手を当て立ちあがろうと振り返ったその時、白いもふもふと目があった。




「キュウ。」












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